「余白」に詰め込んだのは女の子の憧れとキラキラ

あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?

Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。

第10弾は、Yoshiko.n(よしこ)。グラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、手描きの作品を描くYoshikoさん。「曲線」や「質感」の美しさを楽しみながら描く作品は、特に女性から人気を集める。現在は、主にインスタグラムにて作品を公開中。

アパレルデザイナーとしての経歴も持つ彼女ならではのルーツや、人気作品に込められたこだわりを紐解きます。


Yoshiko.n(よしこ)
東京都生まれ、東京都在住の絵画アーティスト。服飾の専門学校を卒業した後、アパレル企業にてファッションデザイナーとして活躍。現在は、グラフィックデザイナーとして働く傍ら、手描きのアートを制作している。
Instagram:https://www.instagram.com/445.n/


筆の「質感」や「感触」がたまらなくて


ーー普段はグラフィックデザインのお仕事をされているYoshikoさんが「手描きの作品」を描き始めたのは、ある意味「反動」のようなものだったそうですね。


Yoshiko.n(以下、Yoshiko) :そうそう。かれこれ10年くらいグラフィックデザインのお仕事をしているので、普段はPCを使って商業的な絵を描くことが多くて。そんな毎日を送っていたら、ふと幼い頃の気持ちに戻って手描きで「女の子」を描きたくなったんです。


ーーPCで描くことと、手描きで描くことは、Yoshikoさんにとってどんな違いがありますか?


Yoshiko :PCで描く絵は、ある意味では「思い通り」に描くことができるので、それはそれで楽しいんですけど、手描きだと「必ずこうなる」ということがないんですよね。普段、お仕事でPCを使って絵を描いている私にとっては、それがすごく刺激的で。筆の柔らかい質感とか、紙にスーッと描く感触とかが、たまらないんです。


Make Up


ーーなめらかな曲線や質感は、Yoshikoさんの作品の特徴でもありますよね。


Yoshiko :曲線、好きですね。特に「髪の毛」を描くのはすごく好きで。あ、でも手や目、唇を描くのも好きだなぁ……(笑)。


ーー元々、アパレルデザイナーをやっていたことも作品に影響していそうですね。


Yoshiko :そうですね。その名残が、かなり強く出ているのではないかなと思います。デザインを学んだり仕事にしていたことはもちろんですが、「ディオール展」で観た、ルネ・グリュオーのデザイン画には、かなり影響を受けていると思います。筆の質感やシンプルだけど洗練された感じ。すごくかっこよくて憧れたのを覚えています。


観てもらうなら、気分が良くなる作品でありたい


ーー女性から似顔絵やイラストのオーダーが絶えないYoshikoさんですが、作品を描く際に意識していることはありますか?


Yoshiko :爽やかさというか、誰が観てもホッとするような作品でありたいと思っています。私自身が、怖い絵や、暗い気持ちになるような絵は、どうしても苦手なんです。もちろん、素晴らしい芸術なんでしょうけど。自分が描く場合、誰かに観てもらうのであれば、観た人の気分が良くなるようなものを描きたいなと思っています。それは、ずっと私の中にある「テーマ」かもしれないです。


Always on your side


ーーネット上で発信しつつも、Casieに登録いただいているような「原画」を大切にしているのも、Yoshikoさんならではのこだわりですよね。


Yoshiko :そうですね。私に置き換えて考えてみても、好きな作家さんの作品はやっぱり「原画」が欲しいんです。例えサインが入っていても、コピーじゃ「特別感」がないですもんね。原画には、何かが宿っているような気がして、そういう部分もすごく好きです。


ーーちなみに、似顔絵以外で描く「女性」には、モデルとなる人物はいますか?


Yoshiko :最近は、何も見ないで描くことが多いですね。似顔絵以外では、はっきり「この人」というモデルは作らないようにしています。でも、描くきっかけになる人物はいて、その人の惹かれたパーツをスタートとして、自分好みにアレンジして描くこともあります。時々「◯◯さんに似てる!」と言われたりもするのですが、まだモデルを当てられたことはないんです(笑)。こないだインスタを更新したら、かなり久しぶりだったのにも関わらず、コメントをいただけて……、すごく嬉しかったですね。最近、仕事が忙しかったのもあり、なかなかインスタ用の絵が描けていなかったので、今年はもっと描きたいなぁと思っています。


一度は諦めた「画家」の夢


ーーグラフィックデザイナーの前には、アパレルデザイナーとしても活躍していたYoshikoさんですが、元々アパレルデザイナーを志していたんですか?


Yoshiko :いえ、子供の頃の夢は「画家」でした。なので、幼稚園の頃から、いつも絵を描いていたんですけど、中学生の時、同じクラスにすごく絵の上手い子がいて、自分とのレベルの差を目の当たりにしたんです。「これが天才ってことか!」と思って、私ごときが画家になりたいなんて言うのは、おこがましいな……と思って一度諦めました(笑)


Chat Noir


ーー(笑)。子供の頃はどんな絵を描いていたんですか?


Yoshiko :幼稚園の頃は、海中の絵を描くのが好きでしたね。いつもきまって同じ構図だったんですけど、砂地から描いて、深海にはチョウチンアンコウ、だんだん上に上がっていくと小魚がいて、海面があって、空にはカモメが飛んでいるような。当時、水族館に行くのが大好きだったので、海の中の世界に憧れがあったのかもしれないです。


ーー意外! 勝手なイメージですが、Yoshikoさんは幼い頃から「女の子」を描いていたのかなと思っていました。


Yoshiko :ですよね(笑)。でも、この海中への憧れは、大人になるまでずっと持っていました。20歳のころにダイビングのライセンスを取って、何年か海に潜りに行っていた時期があったんですよ。今は全く「海」の絵は描かなくなりましたが、私にとってすごく好きな場所ではありますね。


ーー今のような作風になったのは、いつだったんですか?


Yoshiko :作風とまで言えるか分からないですが、小学生くらいの時には、女の子の絵を描くのが好きになりました。小さい女の子って「お姫様」とか好きじゃないですか(笑)。少女漫画も、当時『りぼん』で連載していた『赤ずきんチャチャ(彩花みん)』や『姫ちゃんのリボン(水沢めぐみ)』のような、魔法少女ぽいメルヘンな作品が好きだったので、そういう感じの絵を描いていましたね。でも、当時は自分が描いた絵を、誰かに見せることはほとんどなかったです。


Yoshiko.nさんの作品が、Casieの紹介と共に雑誌『JJ』に掲載されました。

(引用:https://www.instagram.com/p/B83hXIKA3g6/)



ーーそれは、なぜですか?


Yoshiko :誰かに見せるのが、当時はすごく恥ずかしかったんです。なので学校では絵を描かずに、家でばかり描いていました。見せたらからかわれるような気がして、友達だけでなく、家族にも見せないようにしていました(笑)。


「余白」に詰め込む、女の子のキラキラ


ーー先ほどのお話で、元々はデザイナーではなく「画家」になりたかったとのことでしたが、高校卒業後、服飾の専門学校へ進んだきっかけは?


Yoshiko :画家の夢は諦めたけど、何かを作る仕事には就きたかったんです。で、年頃だったんで、服飾に興味が出てきて。すごく図々しいんですけど「アパレルデザイナーなら、誰でもなれるかな」って、思ったんですよね(笑)。もちろん、そんな訳ないんですけどね。アパレルデザイナーになる為に専門学校へ通っていたのですが、学校の授業で1番楽しかったのは、やっぱり「絵を描く授業」でした。


ーー卒業後、実際にアパレルデザイナーとして働いてみて、どうでしたか?


Yoshiko :就職したアパレル企業が「絵を描くこと」を大事にしている会社だったので、すごく楽しかったですね。そこでPCで絵を描く技術を教えてもらったことが、今のグラフィックデザインのお仕事に繋がっていたりもします。


ーーなるほど、そんな経緯があったんですね。ちなみに、Yoshikoさんが作品を制作する過程で、1番楽しい瞬間って、いつなんですか?


Yoshiko :筆を動かしている瞬間が、1番楽しいですね。「わー楽しい!!」っていう感覚ではないのですが、とにかく“夢中”になっていると思います。もちろん完成した瞬間や、誰かに観てもらう時もすごく楽しいのですが、筆の質感や感触を楽しんでいる時間が1番好きかも(笑)。


ーーYoshikoさんの作品は「余白」をうまく活かした構図が、“インテリアに映える”とお客様からも好評ですが、この点についてこだわりはありますか?


Yoshiko :こだわり、というよりも、その状態(余白のある状態)で「よし、完成!」って思えちゃうんですよね。周りに何かを描き足していくことより、その空間にアクセサリーを付け足して、キラキラを盛っていく方が楽しくて。


心待ち|首元についているのは、本物のアクセサリー


ーーそういうのって、ワクワクします! 「楽しい」が詰まったYoshikoさんの作品は、観てる側も幸せになりますよね。


Yoshiko :そう思ってもらえたら、嬉しいです。以前のインタビューで「私の絵を観てくれた人が幸せになってくれたら嬉しい」と言ったのですが、最近では、それってもしかしておこがましい事なんじゃないかな、なんて考えていたので……。


もちろん、大前提としてそういう想いはあるんですけど、それは私が想うだけで十分で、どう感じるかは受け取る側の自由だなって。企業デザイナーとして働いているからこその「癖」かもしれないんですけど(笑)、いい作品にしようと思わず力みすぎてしまうところがあるので、もっともっと力を抜いて、素直な気持ちで描きたいな、と最近は思っています。


……って、こんな事言って、また考えすぎちゃっていますね!(笑)。



Best Art Spot

Yoshiko.nがアートを感じるスポット


アサヒビール大山崎山荘美術館 / 京都・乙訓郡大山崎


引用:https://www.asahibeer-oyamazaki.com/


好きな美術館は、たくさんあるのですが、その中でも「アサヒビール大山崎山荘美術館」は、すごく記憶に残っている場所です。とにかく庭園が美しくて、ちょっと古めかしい建物も素敵ですよね。季節によっては、蓮の花が咲いていたり、自然を楽しみながら、ゆったりした時間を過ごせます。私は東京在住なのですが、東京・表参道の「根津美術館」が好きな人にはオススメです。

【アサヒビール大山崎山荘美術館】

所在地:京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3

公式サイト:https://www.asahibeer-oyamazaki.com/



My Rule

Yoshiko.nさんが絵を描く上でのルール


「気分が乗らない時は、描かないこと」


描いているうちに、途中で飽きてしまったり「この絵やっぱり気に入らないや」と思う時って、どうしてもあるんですよね。そういう時には、無理して描き続けずに、スパッとやめて「また明日」とするようにしています。「絵」って、描いた人の気持ちが表れるものだと思っているので、気分が乗っている時に描くように心がけています。