あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第32弾は、大沼 佑介(おおぬまゆうすけ)。普遍的なモチーフを、ポップで無機質かつ平面的に描いた作品は、どこかサイケデリック。
大沼さんは、自身を“平均的な人間”だと語るが、果たしてどうなのか。今日も彼は、世の中のすべてをアートに変換する「ゲーム」を、絶賛プレイ中である。
大沼 佑介(おおぬまゆうすけ)
福島県会津市出身、東京都在住のアーティスト。無機質で無感情な具象絵画をテーマに、オーソドックスなモチーフを、ポップでどこかサイケデリックな世界観に変換する。
Instagram:https://www.instagram.com/dai4tokku/
ゲームやパズルをクリアする感覚で
ーー大沼さんの作品テーマ「無機質・無感情な具象絵画」は、どういった部分から来ているものなのでしょうか?
大沼 祐介(以下、大沼):僕の場合、作品に込めている想いが、ほとんどないので、「無機質」で「無感情」という言葉を使いました。元となる風景や静物を好き勝手に変換して、ひとつの画面に落とし込んでいくという制作方法なので、どちらかというとゲームやパズルをクリアしていくような感覚で絵を描いているんですよね。
↑ STILL LIFE / 大沼 佑介
ーーいつ頃から、現在の作風になったのでしょうか?
大沼:上京してきた頃ですかね。当時、遊びで“スマイリーフェイス”を自己流に変換した作品を描いていたことがきっかけです。
ダミアン・ハーストというイギリスのアーティストの作品で、キャンバス上に等間隔の点を描いていく『スポット・ペインティング』というシリーズがあるんですけど、それに自分でデザインしたスマイリーフェイスを応用したら面白いだろうなと考えたのが始まりでした。
↑ FLOWERS / 大沼 佑介
ーー元々、絵を描くことは好きだった?
大沼:そうですね。昔から絵を描くのは好きだったんですけど、特別突き抜けていた訳ではなかったと思います。ただ何となく高校生の時に美術の教科書で、ゴッホ、ピカソ、マティスあたりの絵を見てかっこいいなぁと思ったり、「将来は絵を描いて生活したいな」と考えたりはしていました。上京をしたのも、美術の学校へ通うためだったんですけど、途中で辞めてしまって。そのあとの数年はリアル志向な肖像画を描いて売ったりもしていましたね。
普遍的なモチーフを、好き勝手に変換する
ーー幼い頃や学生時代、絵を描くこと以外に好きだったことはありますか?
大沼:んー、映画を観るのが好きなくらいで、特別好きだったものはないかもしれないですね。僕はかなり平均的で普通な人間だったので。
ーーその平均的で普通な部分は、上京したり絵を描くようになってから変わったんですか?
大沼:んー、特に変わってはいないと思います。自分の考えは少しずつ形成されていっているような気がしますが……。
↑ NIGHT / 大沼 佑介
ーーなるほど。というのも、大沼さんの作品や醸し出す雰囲気からして「平均的な普通の人間」には、とても思えなくて(笑)。
大沼:よく言われます(笑)。でも、実はすごく単純で普通なんですよ。作品も一見特殊な感じに見えるんですけど、変換する方法が少し変わっているだけで、思考やモチーフはすごく地味で平凡なんです。
ーー確かにそう言われると、テーブルの上の風景やお花などかなりオーソドックスなモチーフですね。
大沼:そうなんですよ。とはいえ「作るからには人と違うものを作りたい」というのも本音としてあります。もしかしたら、自分のことを「平均的で普通な人間」だと思っているからこそ、人とは違うことをしたいという気持ちが強いのかもしれないですね。
世の中の全てを描き切るゲーム
ーー大沼さんにとって「絵を描くこと」とは?
大沼:「生活の一部」なんて言うと、何だか仰々しいですけど、日頃のルーティンにすんなりと入ってくる行為です。僕にとっては、歯磨きとかと同列なんだと思います。でも「お金あげるから、もう絵を描かないで」と言われれば辞めるかもしれないですね(笑)。
ーー(笑)。ちょっと極端な例ですが「絵を描けないと死んでしまう」というアーティストさんも一定数いますよね。大沼さんはその感覚ではないと。
大沼:そうですね。軽い気持ちすぎて申し訳ないんですけど、そこまでの覚悟は僕にはないんですよ。ただ、仕事として描いている作品にはまた違う感覚もありますね。そこのバランスを調整しながらうまくやっています。
↑ 試し刷りした作品などを、自然の風景に配置して写真作品として昇華させるインスタレーション(大沼 佑介)
ーー最後に、大沼さんがこの先目標にしていることがあれば教えてください。
大沼:自分のスタイルで、世の中の全てを描き切りたい。
でもこれは「できたらいいな」という感じ。「どうせならゲーム全クリして死にたい!」みたいな感覚ですね。
Best Art Spot
大沼さんがアートを感じるスポット
産業廃棄物置き場(ゴミ置き場)
僕が思うに、アートとゴミって本質的には似ていると思うんですよ。道端のゴミ置き場とかも、色々なゴミの置き方があったり、その建物によってゴミの質が違ったり。意外と面白い発見があるんです。
たまにゴミをモチーフにして描くこともありますよ。びっくりするぐらい人気ないですが(笑)。
My Rule
大沼さんが絵を描く上でのルール
他の欲望を優先する
食いたい時は食う、眠たい時は眠る。いつでも自然体でいるために、たとえ制作中でも他にやりたいことが湧き出てきたら先にそちらを処理する。平たく言えばだらしないのかもしれないですが、欲望には正直でいるようにしています。