あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第21弾は、Kayo Nomura。愛知県出身、米国育ち、兵庫県在住のアーティスト。幼少期から現在に至るまで、海外を含むさまざまな地域での暮らしを経験してきた彼女が描くアートは、「対話」から生まれるアート。
人間の多様性について考え、言葉とイメージの間を行き来する、Nomuraさんの「Art Through Dialogue」を楽しんで。
Kayo Nomura(カヨノムラ)
愛知県名古屋市出身、米国育ち、兵庫県在住のアーティスト。マスコミ、外資系企業、シンガポール勤務など、様々なキャリアを重ねた後、絵画の世界へ。「Dialogue Drawing」と名付けたアートセッションをはじめとし、展覧会にも多数出展している
Instagram:https://www.instagram.com/kayonomura_/
Web site:https://kayo-nomura.com/
国内外さまざまな場所にある「ルーツ」
ーーNomuraさんの経歴を見ると、名古屋生まれ、アメリカ育ち、就職後はシンガポール、と本当に様々な場所に「ルーツ」がありそうですね。
Kayo Nomura(以下、Nomura) :そうですね。幼稚園の終わりから小学校の大半をアメリカで過ごしていたのですが、日本に戻ってからも神奈川県に住んだり、名古屋にまた戻ったり、大学時代は京都で過ごしたり……。その間も交換留学で東京に、インターンシップでイギリスに行ったりしていたので、1つの場所に留まることは、少なかったですね。
↑「Where Do You Want to Go? -分離と統合を繰り返す人生の行進-」Kayo Nomura
ーーその後、制作活動を始めたのには、どんな経緯があったんですか?
Nomura :元々絵を描くのは好きだったので、趣味程度に描いたりはしていたのですが、本格的に活動をし始めたのは、初めての個展を経験してからですね。
その時は、絵を描き始めてから半年くらいしか経っていなかったので、自分の中で「個展をやる」という発想は全くなかったのですが、友人の紹介で足を運んだ個展で出会った作家さんに、「個展をやった方がいいよ」とすすめていただいて。それをきっかけに応援してくださる人も増えたり、作品も売れるようになっていったんです。
自由に観てもらえるのが「抽象画」の良いところ
ーー現在のNomuraさんの作品は、抽象的なものがほとんどですが、制作を始めた当初はどんな作品を描いていましたか?
Nomura :当初は、今のような抽象画ではなく「動物の絵」を描いていました。特に理由なく描いていたので、ある日「なんで動物なんだろう」って自分で疑問に思って。特にペットを飼っている訳でもなければ、すごく動物好きだという訳でもなかったので、誰に聞かれても説明がつかなくて(笑)。
ーー(笑)。たしかに個展とかで絶対聞かれそうですよね。
Nomura :そうそう(笑)。そこから「自分が本当に伝えたいことって何なんだろう」と考え始めて、2015年の秋にニューヨークへひとり旅に出たんです。
↑「Off to a New Journey -巣立ちの日-」Kayo Nomura
ーーそれは「迷い」を解決するための“ひとり旅”?
Nomura :はい、昔から「迷った時は、ひとり旅に出る」という、自分なりのルールみたいなものがあって(笑)。現代アートといえばニューヨーク、というイメージも強かったので、ニューヨークを選びました。
ーー実際に行ってみてどうでした?
Nomura :色々なアーティストさんと実際にお会いしてお話を伺ったのですが、本当にそれぞれ色々なバックグラウンドがあって、表現方法も違うんです。ただ「アートが好き」ということだけは共通していて。その時に「もっと自由に描いていいんだ」と思ったんですよね。
それまでは何となくアートって「具体的なものじゃないといけない」という思い込みがあって。でも実際はそうじゃなかった。そこからは、だんだんと「動物っぽい動物じゃない何か」や「植物っぽい植物じゃない何か」に変化して、今の抽象的な作風にたどり着きました。
↑「Surrounding Teardrops -一粒の涙には、たくさんの意味が込められている-」Kayo Nomura
ーーなるほど。時間をかけて、1番しっくりくる今の形(抽象画)に変化していったのですね。
Nomura :そうですね。私が思う抽象画の良さって、人によって見え方が違うところだと思うんです。もちろん具象画でも感じ方は人それぞれですが、より自由に観れるのが「抽象画」なのかなって。作家の意図はあっても、それを相手に押し付ける必要はないと思っているので、タイトルや作者の意図を入り口に、そのあとは自由に楽しんでもらえたらいいなと思っています。
絵の先にある「人間の多様性」
ーーNomuraさんの作品は、タイトルにもこだわりを感じます。タイトルはどのように決めることが多いですか?
Nomura :メッセージとして伝えたいなと思ったことを、日々ノートに記しているのですが、その言葉をベースに決めることが多いです。私は、絵を観る時に「言葉」から入ってもいいなと思っていて。言葉を見ないで絵から入っていく人と、言葉から入って絵を観る人、両方がいていいと思うんです。
↑「Open Minded -自分を持つこと、受け入れること-」Kayo Nomura
ーーなるほど。特に抽象画だと「無題」の作品も多いですもんね。
Nomura :そうですよね。「無題」の良さもあるのですが、私の場合は、どちらの入り口からも入ってきてもらえるように、あえてタイトルを考えています。
ーータイトルが、いい意味で「曖昧」なのが、すごく入り込みやすいなと思います。間口は広くても、自分自身の解釈ができるように余白が残されているというか。
Nomura :それぞれの解釈で見てもらえるようなタイトル付けを、心がけていますね。私の場合、絵を描いてはいるものの、絵を描くこと以上に「人間を理解したい」という想いが強いので。
ーーというのは?
Nomura :例えば、同じ年齢でも住んでいる地域が違うだけで、考え方も価値観も全然違ったりするじゃないですか。今取り上げられている黒人問題もそうですが、「同じ人間なのに、何でなんだろう」って思うことが多いんです。根っこの部分の「優しさ」はみんな共通で持っているはずなのに。
ーーなるほど。色々な国や地域で色々な人に出会ってきたNomuraさんだからこその考えや疑問もありそうですよね。
Nomura :そうですね。色々な視点から理解を深めたいなと思っているので、心理学を学んだり、最近では歴史を学んだりもしています。現状はこうだけど、それがどうやって形づけられたのか。そう考えた時に、ちゃんと歴史を学びたいなと思って。参考書や歴史書を色々買ってきては、受験生みたいに勉強しています(笑)。
↑「Path Crossings -出会いの交差、出会いの層-」Kayo Nomura
ーーそういったインプットも、作品に活きていそうですね。
Nomura :すぐに活きてくるかは分かりませんが、長い目で見たら活きてくるかもしれません。1日の中でも、インプットとアウトプットの時間をなんとなく決めていて。午前中は勉強をしたり、ノートにまとめたりと「インプット」の時間を作って、午後から「アウトプット」として、作品を描き出すことが多いですね。
ーー1日の中にインプット・アウトプット、両方の時間があるのはいいですね。
Nomura :そうですね。うまくバランスを取りながら制作することを大事にしています。いくら絵を描くことが好きでも、1日中描いていたら枯渇しちゃうし、何よりもインプットする時間が私にとって自分との対話の時間にもなっているんです。明るいうちに絵を描いて、夜はゆっくり過ごしています。
内面を描き出す「Dialogue Drawing」
ーーここ最近はコロナの影響もあって、思うように活動できない日々ですが、どのような活動をされていますか?
Nomura :主にオンラインでの発表や活動をしていますね。2017年くらいから、対話をしながら絵を描かせてもらう「Dialogue Drawing」というサービスをやっているのですが、それも現在はオンラインで開催しています。
ーー「Dialogue Drawing」では具体的にどんなことをするんですか?
Nomura :対話を通して、目の前の人の絵を、ライブで描くARTセッションなのですが、その方の気になる色や言葉を伝えてもらい、そこから、その人の「今」を表現していきます。
対話の中から生まれるものが、目の前で色や形を変えながら完成していく、世界にひとつだけの芸術作品をお渡ししています。元々は個展やマルシェのようなイベントでやっていたのですが、しばらくはオンラインでの開催になりそうですね。
↑ 対面で行なっていた頃の「Dialogue Drawing」
ーー最後に、Nomuraさんの今後の展望があれば教えてください。
Nomura :壁画制作、滞在制作、海外で「Dialogue Drawing」の開催など、これまでにやったことのないことを積極的に挑戦していきたいです。その姿を通して、挑戦することの大切さや、一度きりの人生をどう生きたいのか、を多くの人に問いかけていきたいですね。
Best Art Spot
Nomuraさんがアートを感じるスポット
アーレ川 / スイス・ベルン
絵描きになってから、毎年夏は画材を持ってヨーロッパへ旅に出ていて、滞在先近くのお庭や川沿いで絵を描くのが、もっぱらの楽しみです。
その中でも、昨年訪れたベルン・アーレ川の景色が印象的でした。ブルーグリーンの川が太陽の光に反射し、キラキラと輝いていていて。その景色を見ながら野外制作をした時には、普段あまり使わない赤色をふんだんに使いたくなったり、結果的に新しい作風が生まれました。
My Rule
Nomuraさんが絵を描く上でのルール
「制作前に、白黒で絵を描く」
白黒だけで絵を描くノートを作っていて、絵を描き始める前に、それを1枚描いています。その絵を元に制作することもあれば、それとは全く別の作品になることもあって。下書きというよりも、「ストレッチ」みたいな感覚ですね。過去のノートを見返す中で、「やっぱりこの形いいな」なんて思ったら、そこから作品ができることもあります。