あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第4弾はm.haruka。女の子の理想を詰め込んだような、キュートでアンティークな世界観とその独特な色づかいは、女性を中心に多くのファンを虜にしている。
そんな彼女のルーツを辿ってみると、そこには「空間」というキーワードがあり、今に繋がるさまざまなエピソードを聞くことができました。
m.haruka(はるか)
2014年3月 文化服装学院二部服装科 卒業。2016年7月ごろより画家として開業し、個展や合同展、ファッションブランドへのイラスト提供など幅広く活躍中。キュートな世界観で、女性を中心に人気を集める今注目のアーティスト。絵画作品のほか、自作の本などのグッズも人気を集めている。
Instagram:https://www.instagram.com/i_haruka_/
Twitter:https://twitter.com/i_haruka_i_
ベッドとソファに憧れた、幼少時代
↑幸福の青いプードル / m.haruka
— harukaさんの作品は、タイトルにもある通り、キュートでハードボイルドでロマンチックな世界観が特徴的ですが、好きなテイストや趣味は、幼い頃から変わらないんですか?
m.haruka(以下:haruka) :いえ、趣味はかなり変わっています。でも、根本的な「テーマ」や「着眼点」は変わっていないかもしれません。例えば、自分が昔好きだった本を思い出してみると、どれも「部屋」のお話だったりするんですよ。
— 例えば、どんな?
haruka :有名な作品でいうと『そらまめくんのベッド』とか。これは「ベッド」にまつわるお話なんですけど、ベッドとソファは、幼い私にとってすごく「憧れ」の存在だったんです。
当時は、布団で寝ていたのもそうなんですけど、「自分だけの場所」とか「空間」というものに、すごく憧れがあって。この絵本は何度も繰り返し読んだ記憶があります。
— 他に、幼い頃好きだったものや、記憶に残っていることはありますか?
haruka :リカちゃんがすごく好きでした。小学5年生くらいまで遊んでいて、パソコンでリカちゃんのことを調べたり(笑)。
— リカちゃん、懐かしい! リカちゃんの何を調べてたんですか?
haruka :単純にリカちゃんのことを知りたくて調べていたんですけど、色々巡っているとリカちゃんのコレクションが載っているサイトにたどり着いたんです。その流れで、リカちゃん以外の人形のことも知っていったりして。
「引用(https://www.instagram.com/p/B6954DxAeNa/?utm_source=ig_web_copy_link)」
その中でも「スーパードルフィー」という人形には心を奪われましたね。「こんなリアルで、可愛い人形もあるんだ……!」って。だから当時はずっと、スーパードルフィーみたいな絵を描いていました(笑)。
— スーパードルフィーは、リカちゃんに比べて、かなり大人向けの価格なんですね。
haruka :そうなんです。だから、写真を眺めるだけだったんですけど、その様子を見ていた母親が、当時、東京都現代美術館で開催されていた『イノセンス公開記念 球体関節人形展』に連れて行ってくれて。そこで、初めてアート寄りの球体関節人形(※)に触れたんです。恋月姫さんや、三浦悦子さんのような、有名人形作家の作品を観て、それがすごく感動的で……。中学生から高校生くらいまでは、球体関節人形の作家になりたいと思っていました。
(※ 関節部が球体によって形成されている人形の総称。その特徴から、自在なポーズを取らせることが可能である。 人形ではなく、関節部が球体によって形成されている作品を「球体関節」と呼称する者もいる。wikipediaより)
— へぇ! 実際に作ったりもしていたんですか?
haruka :「ドルフィープラス」というバービーと同じくらいのサイズの人形があるんですけど、自分で目を入れたり、ヘッドを削ったりできるんです。それでよく遊んでいましたね。その時に私が選んだ目の色が「ブルーグリーン」だったんですけど、それをきっかけに「ブルーグリーン」の色がすごく好きになって、今もよく作品にも使っています。
— たしかに、harukaさんの作品はブルーグリーンのイメージが強いかも。
haruka :ですよね(笑)。あ、そういえば初めてアクリル絵の具を使ったのも、人形をカスタマイズする時でした。口紅を塗るためにリキテックス(Liquitex)の赤色を買ったんですけど、それも私のルーツになっているかもしれないです。
— 作品を描くのよりも先に、人形のリップを塗っていたんですね! その後、絵を本格的に描くようになるかと思うのですが、今まで描いた作品の中で、自分の転機となった作品はありますか?
haruka :高校時代に、学校で描いた50号の油画ですね。その時、初めて自分の作品を、すごく綺麗だな、愛おしいな、と思ったんです。朝早くに、学校へ行って自分の絵を眺めたりしていたことを覚えています。
「引用(https://www.instagram.com/p/B560oJDhYy8/?utm_source=ig_web_copy_link)」
↑こんな感じの油画だったそう。(写真は最近の作品)
モチーフは、部屋に組み込む
— harukaさんの作品には様々なモチーフが登場しますが、それらはどんなものからインスピレーションを受けているんですか?
haruka :私の描いている絵は、基本的に実在するモチーフが土台になっています。なのでモチーフを集めるため、毎週のように骨董市に探しにいくこともあります。
— 写真を撮るだけではなく、実際に買っているんですね。そうするとお部屋が、大変なことになりませんか(笑)?
haruka :はい、なっています(笑)。でも、モチーフのために買ったものなので置かれているだけで、それが新しい絵の構成を組む時のヒントにもなるんですよね。
↑harukaさんのお部屋の一部
— 確かに、お部屋の世界観と作品の世界観がほぼ一致していますね。
haruka :そうかもしれないです。絵を描くのをやめてインテリアにはまっていた時期もあったくらい、インテリアが好きで。当時は、ペンキを塗ったり、棚を作ったり、DIY的なことも色々していました。基本的には何かを作っていられれば、落ち着くんですよね(笑)。たとえ、それが「絵」じゃないとしても。
— なるほど、そうなると今後絵を描くのをやめて他のものを作る、ということもあり得そうですか?
haruka :全然あり得ますね。でも、それでもまた「絵」は描くと思います。私にとって絵は、自分の細かい変化に気づける大切な存在なんです。「あ、自分は今こういう状態なんだな」とか、そういうことを1回1回確認できる制作って、今のところ絵だけなんですよね。だから、絵を描いていない時は、時間が止まっているような気がしちゃう。だからこれからも、絵は描き続けるんだと思います。
「飽きた」と言えることを大事にする
— ちなみに、制作の過程で、1番テンションが上がるのってどんな時ですか?
haruka :作品を描いている最中が1番楽しいですね。「あ、これは完成させることができるな」っていうのが見えてきた時から、かなりテンションが上がります。その時の己の限界を試して描いているので、「できるかな?できないかな?……あ、できるかも!」っていう、希望が見えた瞬間が、1番楽しいですね。あとは、「初期衝動」を感じた時ですかね。
— 初期衝動?
haruka :「これをやってみたい」という、新しいことにチャレンジする時がすごく楽しいんです。なので、色々なことをやって常に初心を感じる、というのが、自分の中のサイクルになっている気がします。同じことを続けていくと、どうしても人は慣れてくるし、上手にもなっていくので、下手なことができなくなっていくんですよね。だから、視野が広くなりつつも狭まる。そういうところをどう崩していくか、いつも考えて行動しています。
↑ 二人の部屋 / m.haruka
— それは、すごく共感できるかも。アーティストだけでなく全ての人に言えることかもしれないですね。
haruka :そうなんです。他のことにも向き合ってないと、自分の今やっている「好きなこと」にも、正直に「飽きた」という感情を認めることができないと思うんです。他を見ていないと、つい1つのことにしがみついてしまって、自分はこれがなきゃだめ、みたいになってしまう。でもそうじゃなくて、色々なことをやっていれば「今、これに飽きているんだよね」と正直に言える自分を保つことができる、そのことがすごく大事だと思っていて。
今も昔も「空間」がテーマ
— harukaさんは現在、アーティストとしてのお仕事だけで生活をされていると思うのですが、自分の描きたいものと、お客さんが求めるもののバランスについて、どう考えていますか?
haruka :私の場合は、自分の描きたいものと、お客さんが求めているものが合わさる場所を見つけること自体を、「自分のしたいこと」にしています。そういう、周りのニーズも含めて、自分のやりたいことを見つけている感じですね。
— それ自体を楽しんでいるからこそ、自由でいれるし、苦にはならないんですね。
haruka :そうそう。仕事だから無理矢理……とかじゃなく、自分から歩み寄る姿勢で描いていく感じですね。私は、ネット上で作品をどんどん発表するのですが、それも楽しんでもらいながら、反応も見ながら、描きたいからなんです。加えて、作品の方向性が大きく変化することもあるので、その変貌のグラデーションが分かるように、またいち早く親しんでもらえるように、発表を通して常時コミットしていくことを大切にしています。
↑ 私になる準備 / m.haruka
— 最後に、今後新しくチャレンジしてみたいことを教えてください。
haruka :最近は、「脱出ゲーム」を作ってみたいなって思っています。昔流行っていたPCでできる海外の脱出ゲームのようなものを作ってみたくて。
— 懐かしい! クリックして色々な場所を開けていくような!
haruka :そうそう(笑)。今思えば、そういう脱出ゲームが、すごく好きだったなって思って。だから自分の描いた作品のコラージュとかで、作ってみたいんですよね。いわゆる本気の脱出ゲームというより、脱出してもいいし、しなくてもいいような世界を作りたいなぁって。
— あれ、これもまた「空間」じゃないですか?
haruka :そうなんです(笑)。やっぱりどこまで行っても「空間」なんですよね。近々実現できたら嬉しいです。
Best Art Spot
m.harukaさんがアートを感じるスポット
「ボタンとリボン / 東京・町田」
「ボタンとリボン」は、17歳の頃に出会った古着屋さんです。
このお店と出会って、初めて触れた価値観がたくさんあって、まずは“おしゃれ”がすごく楽しくなりました。
そして、私が独立しようと決めた時に、「展示していいよ」と、声をかけてくれたのも、この「ボタンとリボン」さんだったんです。
なので、私にとってすごく大事な場所でもあり、行くと元気をもらえる場所です。
<店舗情報>
https://www.terminalroad.org/shop/1087
「椿座 / 東京・原宿」
もう1つは、2020年2月1日に原宿・キャットストリートにオープンしたばかりの「椿座(つばきざ)」というお店。
看板ポスターを私が制作しています。
このお店もきっと私にとって大切な場所になると思っています。
写真だけでは分からない魅力がたくさん詰まっているお店なので、ぜひ直接お店に訪れて体感して欲しいです。
<店舗情報>
https://tsubakiza.official.ec/about