あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第30弾は、栗原 あき(くりはらあき)。一見すると可愛らしい世界の中に、独特な違和感やアンバランスさを感じる栗原さんの作品。
「ただ可愛いだけじゃなく、どこか気持ちの悪さを取り入れつつ描いている」と話す彼女。観ればみるほど非現実の世界へ引き込まれる世界観のルーツに迫ります。
栗原 あき(くりはらあき)
埼玉県出身、埼玉県在住のアーティスト。女子美術大学油彩科卒業 / デジタルハリウッドVFX科卒業。大学卒業東京へ移住、結婚を機に埼玉へ。
Twitter:https://twitter.com/kuri_paint
Instagram:https://www.instagram.com/_kuri_a/
脳内でコラージュした、現実と非現実の間
ーー栗原さんの作品って、一見可愛らしいようで、独特な「違和感」や「脱力感」があるというか。登場するモチーフや構図にも、どこか妖しげな魅力を感じます。
栗原 あき(以下、栗原):ありがとうございます。ただ可愛いだけじゃなく「気持ちの悪さ」も出るといいなと思って描いています。なので、構図もあえてアンバランスな感じにしたり、現実と非現実の間のような世界観を意識しています。
↑rainy day / 栗原 あき
ーー部屋の中から見える窓の外の風景がやけに絶景だったり、部屋の中に大きな動物がいたり。クマのぬいぐるみや、金魚鉢、食卓のシーンなど、頻繁に登場するモチーフも気になります。
栗原:そうですね。よく登場するモチーフについては、アンリ・マティスやピエール・ボナールに影響を受けている部分が大きいと思います。
ーーなるほど。その他でいうと、作品のインスピレーションは、どんなところから得ることが多いですか?
栗原:最近は、SNSを見ることも多いですね。自分が行ったことのない場所の景色や、気になる物など、何でも簡単に探せるので。それらを頭の中でコラージュして、自分の中にあるイメージに近づけていくような感じです。ただ、その作業が思うようにできなくて、すごく時間がかかってしまうこともあります。
美術の教科書で見た巨匠に影響を受けて
ーー栗原さんが、絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
栗原:絵を描くことは幼い頃から好きでした。唯一褒めてもらえることだったので(笑)。小学生の時は『りぼん』を読んで、漫画家になりたいと思ったりしたこともありましたが、美術の世界に興味を持ったのは中学生の頃ですね。
↑トラのいる庭 / 栗原 あき
ーーそれはどんなきっかけで?
栗原:教科書で見た、いわゆる「巨匠」と呼ばれる芸術家たちの作品に衝撃を受けたんです。そこからは、好きな芸術家に関する本を買ったり、展覧会に足を運んだり。特に影響を受けたのは、ピエール・ボナール、アンリ・マティス、ピカソなどでした。
ーー当時からすでに美大進学を考えていたんですか?
栗原:いえ、当時は全然考えていなかったです。運動部だったのもあって、絵を描くこともほとんどなかったですし。でも、心のどこかでは「絵に関わる職業につけたらいいな」と思っていました。美大に行くことを決めたのは、高校1年生の時で、美術の先生にすすめてもらったのがきっかけでした。授業で描いた石膏像を褒めてもらって。ちょうど学校の隣に、美術の予備校があったので、通うようになりました。
余裕のある時間から生まれる、脱力感と開放感
ーー現在は、2人のお子さんを持つ母でもある栗原さん。女子美術大学卒業後は、どんなお仕事をしていたんですか?
栗原:破損した家具の補修をする仕事を、5年ほどしていました。カッコ良く言えば「リペアアーティスト」です。
↑Room with cat / 栗原 あき
ーーへー! 確かに細かい作業やセンスが必要なお仕事なので、美術系出身の方も多そうですね。
栗原:そうなんですよ。学校に募集が来ることもあって、美大や美術系専門の人は多かったですね。
ーー当時も、プライベートでは絵を描いていたんですか?
栗原:はい。でも、だんだんと平面での表現に限界を感じるようになってしまって。ちょうどその頃、仕事をしながら、デジタルハリウッド大学のVFX科に通い始めました。
ーー卒業した後は、映像関係のお仕事についたんですか?
栗原:卒業してからは映像関係の会社に入ったんですけど、キツすぎて(笑)。1年ぐらいで退職し、結婚・出産を経て今に至ります。今は専業主婦 兼 画家なので、やっとちゃんと絵を描ける環境になった、という感じです。
ーー仕事との両立はキツい面も多そうですよね。
栗原:そうなんですよね。Casieで、他のアーティストさんのインタビューを読んでいると、両立しながら活動している人も多くて、本当に尊敬します。私は色々なことを同時にできるタイプではないので、時間に余裕を持てないと、絵を描くのは難しいですね。
ーー栗原さんにとって「絵を描くこと」とは?
栗原:「すごく好きなこと」ですね。私の場合、“絵を描く”という作業自体が、すごく好きなんだと思います。なので、今振り返ってみると、仕事ばかりして絵を描けなかった20代の頃は、すごくつらかったです。
↑breakfast / 栗原 あき
ーーずっと描きたいという気持ちがあったんですね。
栗原:描きたいという気持ちはあったんですけど、それと同時に、何を描いたらいいのかは分からないというのもあって。
ーー当時は忙しく、余裕がなかったからですか?
栗原:たぶん、そうですね。時間に余裕ができてやっと「これかな?」というものが見えてきたのが、実は最近なんです。でも、今もまだ満足はしていないので、まだまだ描き続けていかないとですね。いつか、映像作品もまた作りたいですし。
そしていつか納得のいく形で、自分の個展を開くことが今の目標です。
Best Art Spot
栗原さんがアートを感じるスポット
新潟の海
祖母の家があった新潟県の海が、私にとってのアートスポット。子供の頃からよく訪れていました。特に山の上から見る海は、私の作品のテーマの1つでもある「開放感」を感じられる場所です。
My Rule
栗原さんが絵を描く上でのルール
「偶発的なものを大切に」
下書き通りに終わらせないことがマイルール。思っていた以上のことや予想外なことが画面の中で起きないと、面白い作品にはならないと思っています。
そういう偶発的なものを大切にし、これは面白くならないなと思ったり、新鮮さがなくなってしまった時は、潔く途中で描くのをやめたりもします。