あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第5弾は、川瀬 大樹。しなやかな曲線と点描から描かれる動物たちは、どこかファンタジーな雰囲気を纏い、幅広い世代から人気を集めている。
数多くいる動物の中から、「ジラフ(キリン)」をメインモチーフに設定し、日々作品を生み出し続ける彼の、意外なルーツや、制作に対するこだわりに迫ります。
川瀬 大樹(かわせたいき)
香川県出身、京都府在住のアーティスト。成安造形大学中退。絵画作品の販売や、個展の開催など精力的に活動中。「ジラフ(キリン)」をメインに描く動物モチーフの作品たちは、優しい色彩と、なめらかな曲線が美しく、そのファンタジーな世界観が、老若男女から好評を得ている。
Instagram:https://www.instagram.com/kawasetaiki/
Twitter:https://twitter.com/taiki30
「ジラフ」が、画家としての運命を変えた
— 川瀬さんといえば、「ジラフ(キリン)」を描いた作品が印象的ですが、どんな経緯で「ジラフ」をモチーフにした作品を描くようになったんですか?
川瀬 大樹(以下、川瀬) :元々は、猿や鹿、ゾウなど、色々な種類の動物を描いていました。動物画家として、色々なグループ展に参加をしつつも、なんだかパッとしない時期が続いていて……。そこから、色々と試行錯誤した結果、「ジラフ(キリン)」をメインモチーフにしよう、と決めて今に至ります。
↑「ジラフ星降るワンダー☆」川瀬 大樹
— それは、どんなきっかけで?
川瀬 :色々な動物画を発表していく中で、なぜか「キリン」の絵だけ、特に評判がよかったんです。グループ展の人気投票で上位になったり、コンクールで入賞したり。その頃から、意識的に「これをメインモチーフとして描いていきたいな」と思うようになっていきました。
— 色々な動物を描く中で「ジラフ」の評判がよかったのって、なぜだったですか?
川瀬 :これは、描いている中でだんだん分かってきたことなんですけど、僕自身「か細い曲線」を追いかけていくことが好きだったんですよね。例えば「テナガザル」のような。細長い、しなやかなフォルムを描くことが好きだったんです。なので、ジラフは、自分の中で「好き」と「得意」が一致するモチーフなんだと思いますね。
— そう言われると、どの作品もしなやかな曲線で描かれていますよね。「曲線」を描くのは、昔から好きだったんですか?
川瀬 :意識はしていなかったですが、考えてみれば、そうだったんだと思います。学生時代から「デッサン」がすごく苦手だったんですよ。線をまっすぐ描いたりとか、左右シンメトリーとか、そういうのがすごく苦手でしたね(笑)。
「絵」がなければ、全くの別人だった
— 川瀬さんは、幼い頃から絵を描くことが好きだったそうですが、幼い頃に描いていた絵で覚えているものはありますか?
川瀬 :小学生の頃は、みんなと同じように、漫画やアニメのキャラクターを真似して描いていました。友達同士で自由帳を見せ合っていたのを覚えています。その時は、僕よりも上手な友達が何人もいたので、絵を描くことは好きでも、絵に対して特別な感情はなかったですね。絵を仕事にしたい、なんて考えることもなかったですし……。クワガタを捕まえに行くのと同じで、数ある遊びの中の1つという感じでした(笑)。
— 意識的に絵を描き始めたのって、いつだったんですか?
川瀬 :中学生の頃だと思います。勉強してクラブ活動して塾に行って……、というサイクルが、突然嫌になって、学校へ行かなくなってしまった時期があったんです。だからといって、ずっと家にいても何もやることがないので、「何かしないと」と思って、小学生の時から好きだった「絵」を描き始めました。「1日1枚絵を描く」という目標を、自分自身に課して、B5くらいのノートに絵を描き続けたのが、本格的に絵を描くようになったきっかけですね。最初は図鑑やカタログを見ながら、気になるモチーフを描いていたんですけど、どんどん創造力を働かせて描くようになっていって。
↑「ジラフ森彩シンフォニー☆」川瀬 大樹
— 当時、描いた絵を、誰かに見せることはあったんですか?
川瀬 :家に遊びに来た、友人の母親や、当時面倒を見てくれていた先生に見てもらうことがありました。絵を見せると、色々なコメントをくれるのが嬉しくて。人見知りだけど、人と喋ることはすごく好きな子供だったんですよね(笑)。それまでは、一人で描いていたので、白黒で暗い絵を描いていたんですけど、人に見せるようになってからは、カラフルな色をつけるようになって、絵柄も明るく、描き込みも細かくなっていきました。
— 人に見せることによって、描く絵が変わっていったんですね。
川瀬 :当時は、そうでしたね。何かに影響されたり、精神状態が絵に出ていたような気がします。でも、今はどちらかというと、僕自身が「絵」に影響されている気がします(笑)。明るい楽しい絵を描くようになってから、僕自身の性格も変わっていって。前よりもたくさん喋るようになったし、「人懐っこくなったね」と言われるんですよ。
— 確かに今は絵のイメージ通り、めちゃくちゃ明るいですよね。
川瀬 :ですよね(笑)。絵から、いい影響をもらっているんだと思います。絵は旅もさせてくれますしね。
— 旅とは?
川瀬 :絵の展示を全国でするようになって、それをきっかけに、前よりも色々な土地へ出かけるようになったんです。それで、色々な場所に友達ができたり、すごく世界が広がったような感じがしますね。時々、「絵」が無かったら、僕は全くの別人になっていたんじゃないかなと考えるんです。「絵」があったよかったなと、本当に思いますね。
↑展覧会の様子
— その絵が、さらに絵を観てくれた人へ影響を与える、といういいサイクルですね。
川瀬 :そうであれば、すごく嬉しいですね。自分の中で作品のテーマにしているのは「希望」なんです。嫌なことや辛いことって、どんな人にでもあると思うんですよ。そんな時に、僕が描いた絵を観て「もう少しだけ頑張ってみようかな」と思ってもらえたら嬉しいですね。
絵は誰かに観てもらえなきゃ「ニート」みたいなもの
— 川瀬さんの作品って、「ジラフ親子マイルド日和☆」や「ジラフ3兄弟マイルドワンダー☆」のように、個性的なタイトルが多いですよね。これには、何かこだわりがあるんですか?
川瀬 :いえ、タイトルは結構適当なんです(笑)。
— え、適当だったんですか(笑)。てっきり、何かこだわりがあるのかと思いました。
川瀬 :ほとんど無いんですけど、「マイルド」という単語は、すごく気に入っているのでよくつけています(笑)。“まったり”とか、“のんびり”とか、そういう意味合いで、作品にあっているような気がしていて。しかし、僕自身が完成した作品に対してはあまり執着心がないので、タイトルをつけるのも結構適当なんですよね。
— なるほど。そのあたりの感覚って、作家さんによって結構分かれますよね。
川瀬 :そうなんですよね。他の作家さんと話をしていると、作品に対して「お腹を痛めて産んだ我が子」とか「自分の分身」なんて表現をする方も多いんですよね。要するに、自分が描いた作品がすごく大事だという意味なんですけど。僕の場合は、少し違っていて、何よりも「描く過程」が好きなんです。例えるならば「テレビゲーム」みたいな感じですね。作品を描いて、その作品が売れたらまた新しい絵の具を買って、新しい絵を早く描きたい、みたいな。
— クリアして、どんどん更新していく感じですね。
川瀬 :そうなんですよね。だから、絵に対して「我が子」とか「分身」っていう感覚は全然なくて。基本的には、完成したら自分の手元を離れて、誰かの元へ届いてくれる方が断然嬉しいです。作品が押入れに眠っているっていうのは、1番よくないと思うんですよ。絵が「ニート」しているみたいなことなので(笑)。
— ニート!!! たしかに(笑)。
川瀬 :だから今、Casieを通じて、全国の誰かの元へ作品が届いていることがすごく嬉しいですね。ちゃんと働いてくれてる! っていう感じで(笑)。
この先ずっと、「ジラフ」で選ばれる存在になりたい
— 今までの話をまとめると、川瀬さんが1番テンションが上がるのは、「絵を描いている過程」でしょうか?
川瀬 :そうですね。その過程の中でも、思いも寄らない発想が出てきた時とか、自分が驚くようなものが描けた時が、1番楽しいです。
↑「GIRAFFE-星空のシンフォニー」川瀬 大樹
— 普段はどんな環境で制作をすることが多いんですか?
川瀬 :音楽とかは流さずに、静寂な空間で描くことが多いですね。インプットとして音楽を聴くことはあるんですけど、絵を描いている最中に聴くと、どうしてもそっちに引っ張られてしまうので、静かな空間で描くようにしています。無音ではありますが、自分の中では「リズム」を奏でながら描いているんです。
— それは、どんなリズムなんですか?
川瀬 :ドットを打って描いている作品が多いのですが、ドットを打つ作業は、自分にとって「リズムを奏でること」なんですよね。特に綿密な絵を目指しているという訳ではなくて、自分にとって心地の良いリズムを奏でているだけで。それが、結果として、人が観た時に心地の良いものになってればいいなって。自分にとって、絵を描くことって、誰も歩いていない砂浜に足跡をつけていくような感覚なんですよね。
— それ、めちゃくちゃ分かりやすいですね。制作中は無音とのことですが、普段インプットとして観るものや聴くものはどんなものが多いですか?
川瀬 :映像を観るのも好きなんですけど、1番は「山登り」ですね。山には、生と死の間が存在しているので、それを体感しながら、その感じたことを制作に活かしたりしています。僕の作品に描かれているジラフの尻尾も、そこから山登りで感じたことからインスピレーションを受けていて、尻尾の先が、他の植物や何かと融合していく過程を描いているんですよね。
— 最後に、川瀬さんが今後描いているビジョンがあれば教えてください。
川瀬 :僕は、例えるならば、小さな食堂を一生経営したいと思っているんです。歴史に残りたいとか、ダヴィンチみたいになりたいなんて、微塵も思っていなくて。一代限りの食堂でいいんです。でも、向かいにイオンモールが建っても、それに耐えることができるような、そんな食堂でありたい。「ジラフ」で、何十年と選ばれ続ける存在でありたい、そう思うんです。
Best Art Spot
川瀬さんがアートを感じるスポット
「igumart(イグエムアート) / 大阪府北区」
僕自身も個展を開催させてもらっているギャラリーなのですが、お客さんとしてもよく遊びにいく場所です。ギャラリーって、堅苦しくて入りにくいイメージがある人も多いと思うんですけど、ここはすごくアットホームで、思わず長居してしまうような空間なんです。絵の話だけじゃなく、色々な話ができる場所なので、いい意味で敷居が低い、オススメのギャラリーです。
<ギャラリー情報>
https://igu-m-art.business.site/
My Rule
川瀬さんが絵を描く上でのルール
「体の調子を整える」
僕自身、絵を描くときは、体を通して絵の具を抽出しているような感覚なので、絵を描く上で「体」はすごく大事。特に僕の描く絵なんて、体が病んでいる人が描いていたらすごく嫌じゃないですか(笑)。なので、体を鍛えるためにジムへ通ったり、絵を描き続ける為の体力作りは欠かしません。きっちり睡眠を取るとか、出来るだけ健康に良いものを食べるとか、ベストな状態で絵を描けるように心がけています。