あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第28弾は、入江 英三(いりえひでみ)。40歳のころに「画業1本で生きていく」と決めた入江さんは、今の自分が「本当の自分」なのだと語る。
大好きな風景と大好きなものを“絵画ならではの表現”で描き続ける「幸せな画家生活」に迫ります。
入江 英三(いりえひでみ)
山口県出身、東京都在住のアーティスト。武蔵野美術短期大学中退。40歳の時にそれまで続けていた仕事を辞め、画業一本の生活に。Casieアートコンテスト vol.1グランプリ受賞。
Web site:https://www.hidemiart.art/
作品一覧:https://casie.jp/artists/1104
40歳で決断した「画家」の道
ーー入江さんは、40歳のとき、画業一本の生活を始めたそうですね。それまではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
入江 :山口県の工業高校を卒業後、大手電機メーカーの工場に勤めていました。ずっと勤め続けていれば、今頃年金をもらって悠々自適な暮らしをしていたかもしれませんね(笑)。
ただ私の場合は、会社にいても絵のことばかりを考えてしまって仕事が身に入らず。当時通っていた美術短大も、仕事が終わってから2時間くらいかけて授業へ向かうので、いつも遅刻。なので一生懸命通ったものの卒業はできなかったんです。そういった中で、仕事は長く続かず5年で辞めてしまいました。
ーー電機メーカー退職後はどんな道へ?
入江 :少しでも絵に関係のある仕事をするために、額縁屋さんやデザイン会社を転々としていました。一番長く働いたのが建築関係の会社でしたね。大きな製図台で図面を描く仕事だったのですが、結局それも「絵」ではないので、だんだん苦しくなってしまいました。仕事を辞めて、画業一本にする決断をしたのはその時でしたね。
↑30代の頃、次女と一緒にスケッチに出かける入江さん
ーー色々な葛藤を経て決断をされたんですね。
入江 :妻も子供もいたので、かなり葛藤はありましたよ。ただ、不思議と不安はなかったですね。いざ40歳になって「このまま人生が終わってしまうかも」と考えたときに、やりたいことをやるべきだと思ったんです。どうやって絵を売るのか具体的に考えるようになったのは、実際に仕事を辞めてからでした。
ーーご家族にはどう伝えたんですか?
入江 :妻と子供に「サラリーマンを辞めて、絵を描きたい」と言いました。当時すでに子供は成人していたこともあって、快く許してくれたんです。それ以来ずっと絵を描き続けることができているのは、本当に妻と子供のおかげですね。
↑皿の中のさくらんぼ / 入江 英三
ーー画業一本になってから、入江さんの中でどんな変化がありましたか?
入江 :大好きなことを毎日できるので、心はすごく安定しましたね。ただ、金銭面ではどうしても安定しないのが現実ですね。ただ、金銭的な安定を除けば、いい縁に恵まれ、個展や展覧会では絵がたくさん売れ、順調なスタートでした。
現在は、自身の制作以外にも、絵画教室の講師をやったり、若い画家仲間にすすめられてSNSを始めたり、YouTubeを始めたり。実は、Casieもその方に教えてもらったんです。日々、新しい挑戦をしていきたいですね。
「特別」だった、白い画用紙・油彩セット
ーー入江さんが、絵を描くことが好きだと自覚したのはいつ頃でしたか?
入江 :小学校の時ですかね。図工の時間になると、先生が「白い画用紙」を持ってきてくれるんです。今は安く手に入りますが、当時は今より高価で、貴重品だったんです。普段は広告の裏に絵を描いていたので、白い画用紙に描ける時間は本当に特別で、図工がある日はいつもウキウキしていましたね(笑)。
ーー当時味わった「特別感」が、今では生活の一部になっているなんて!
入江 :そうですね。簡単に手に入らないからこそ、より好きになったというところもあるかもしれませんね。
それからしばらく経って、高校生のときには、絵が好きな友達と一緒に山口から福岡まで「ミレー展」を観に行きました。何百年も前に描いたものなのに、今描いたばかりかのような新鮮さで、初めて「油彩画」の魅力に触れた瞬間でした。そこから、アルバイトでお金を貯めて、デパートの小さな画材売り場で「油彩セット」を買ったのが、油彩画を始めるきっかけでした。今は画材屋さんで普通に手に入るものですが、当時はとても高価なもので、ショーケースの中に入っていたんですよ。
↑ヨーロッパの客車を描いた作品
ーー絵を描くこと以外に、好きだったことや続けていることはありますか?
入江 :鉄道が好きですね。幼い頃から、紙で鉄道模型を作って遊んだりしていました。大人になってからはジオラマを作っています。Nゲージという線路幅9mmの線路に乗る車両の模型があるのですが、それを走らせるために線路を敷いたり、石膏や粘土を使って山やトンネルを作ったり。最近は絵を描くことが忙しくてなかなか進んでいないですけどね……。
↑St.Michael’s mount / 入江 英三
仕事を辞めてからの数十年「毎日絵が描けること」「絵のことだけ考えていいこと」それだけで本当に幸せな毎日です。長く会社に勤める生活をしていたものの、今の自分が「本当の自分」であるような気がしているんです。
Best Art Spot
入江 英三さんがアートを感じるスポット
コーンウォール / イギリス
国内外ともに、たくさん好きな風景がありますが、自身の作品でも描いたことがある、イギリス南西部のコンウォール地方の風景を紹介します。2021年G7サミットが行われた場所としても知られている場所なんですよ。
My Rule
入江 英三さんが絵を描く上でのルール
「花の絵を描けない(描かない)」
僕は、なぜか「花の絵」を描けないんです。風景の中に咲いている花程度のものであれば良いのですが、瓶に入った花などはなぜか描く気がしない。「花の絵を描いた方が売れるよ」と、よく言われるのですがなぜか僕には描けないんです。