目に見えない美しさで 「五感」を刺激するアートを

あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?

Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。

第13弾は、あべ みずほ。京都府出身、大阪府在住の絵画アーティスト。あべさんの描く作品には、様々な「芸術」が詰まっている。それは、音楽であったり、クラシックバレエであったり、あべさんが過ごしてきた中で出会った様々な「美しいもの」。

五感に、豊かな刺激を与えてくれる作品のインスピレーション源とは? 4歳から絵描きになると決めていたという、あべさんのルーツに迫ります。


あべ みずほ
京都府生まれ・大阪府在住のアーティスト。幼少期から、両親の影響で音楽やクラシックバレエなど様々な芸術に触れる生活を送る。現在は自身のデザインオフィスを持ち、グラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、多方面からインスピレーションを受けた作品を制作中。
Instagram:https://www.instagram.com/abe_mizuho/


4歳の夢、「おえかきやさんになる」


ーーあべさんは、幼い頃から「絵」の他にも、様々な芸術に触れてきたそうですね。


あべ みずほ(以下、あべ) :はい、幼い頃からクラシックバレエを続けているほかに、音楽好きな両親の影響で、幼い頃から音楽にも親しんできました。姉はピアノの先生をやっていたり、家族ぐるみで音楽が好きで。私自身も音楽の道に進む、という選択肢はあったのですが、幼心に「私、絶対音楽の才能ないな」って思ったんですよね(笑)。それよりも「絵の才能があるな」と。


ーーかなり幼い頃から自分の才能に気づいていたんですね。


あべ :そうですね、自画自賛ではあるけれど(笑)。4歳では、すでに「おえかきやさんになる」って決意をしていたんです。かなり早い段階で「自分は絵を描く人になるんだ!」って思い込んでいました。


あべさんが4歳の時に書いた決意。


ーー4歳の頃に思い描いた夢を今、叶えているということですもんね。


あべ :そうですね。その点では、私ってすごく恵まれた人生なんじゃないかなって思っています。


ーー幼い時どんな絵を描いていたか覚えていますか?


あべ :普通に周りの子たちが描くような“お姫様”とかも描いていたし、塗り絵とかも好きでしたね。小学校1年生の時には、自分から「アトリエに通わせて欲しい」と両親に頼んで、隣町にあるアトリエに自転車で30分くらいかけて通うようになりました。


Piece of color


ーーアトリエは、お絵描き教室みたいな感じですか?


あべ :そうですね。画家の先生が、小学生から高校3年生の大学受験までみてくれるような。水彩とかデッサンとか、色々な絵画技法を気まぐれに教えてくれるような感じで。とにかく色々な事を自由にやらせてくれたんですけど、いつも先生が「みずほちゃん、お絵描きに間違いはないねんで」って言ってくれたのを覚えています。今でも、その言葉は自分の中で軸になっていますね。


文学や音楽からインスピレーションを受けて


ーー絵を描く上で、様々な芸術からインスピレーションを受けているそうですが、音楽やクラシックバレエ以外で、特に作品へ影響を与えているものはありますか?


あべ :本を読むことが昔から好きで、その中でも特に「純文学」が好きです。夏目漱石や森鴎外のような作品から、村上春樹やカズオイシグロ、中勘助、海外文学でいえば、ジョージオーウェルみたいな思想文学、バージニアウルフとかも。美しい言葉が使われていたり、言葉によるアートを感じる作品が好きですね。

例えば『The_Moon_and_Sixpence 』とかもそうで、小説の中に出てきた美しいフレーズからインスピレーションを受けることは、すごく多いです。


TheMoonand_Sixpence


ーーあべさんの作品の裏側には、説明が書いてあることも多いですが、これにはどんな意味がありますか?


あべ :美しい言葉がすごく好きなので、文学や音楽などからインスピレーションを受けたものに関しては、目で観るだけでなく、五感で感じる作品になればいいなと思い、作品の裏に簡単な説明を書いています。でも、それを観る人に押し付けるのではなく、自由に感じてもらいたくて、少し控えめに書いていたり。それこそ、アトリエの先生が言ってくれた通りで、“お絵描きに間違いはない”し、感じ方にも間違いはないので。


1度やり始めたことは、長く続ける

ーー現在はフリーでデザイナーのお仕事をしながら、作品の制作を行うあべさんですが、普段どのような比率で制作をしていますか?


あべ :今のところは仕事としてデザインのお仕事の方が多いのですが、ここ数年はアートの比率が増えてきていますね。


ーーあべさんは普段から様々な活動をされていて、かなりアクティブなイメージです。


あべ :(笑)。自分ではそう思っていなかったんですけど、たしかにやっているものの数は多いかもしれないです。というのも私、1度やり始めたらなかなかやめないんですよ。なので、どんどんやっているものの数が増えていく感じで。このままだと、将来的にすごい事になっていきそう……。


↑バレエを踊るあべさん(子供時代)

↑バレエを踊るあべさん(現在)


ーーたしかに、そうですね(笑)。数ある中でも、今1番力を入れていることは?


あべ :んー、いっぱいありますね! でも最近は、より「アート」の方に力を入れているような気がします。というのも、2、3年前に元会社の後輩と一緒に『二人展』という展示を始めてから、自分が思っていた以上にアートに興味を持ってくれる人が多い事を知ったんです。元々、絵が売れるなんて考えてもいなかったんですけど、買ってくれる方が結構いたりして。私の絵を観てくれたり、興味を持ってくれる人がいる限り、応えていきたいなって思うようになっていって。


ーー「二人展」では、どんな展示をしているんですか?


あべ :後輩は、アクセサリーを作っているので、私の絵と共に展示しています。その子が声を掛けてくれるまでは、絵を描いても発表はしていなかったんですよ。


ーー意外です! 昔から展示をいっぱいやってそうなイメージでした。


あべ :そうですよね(笑)。絵を描くこと自体は、ずっと続けているけど、展示とかを積極的にやり始めたのって、実はここ2、3年なんです。


ーー展示以外にも、最近では「マチオモイ帖」など、面白い取り組みをたくさんされていますね。


あべ :「マチオモイ帖」(http://machiomoi.net/)は、数年前に大阪のデザイナー仲間の繋がりで参加しました。自分の思い入れのある町を、絵や冊子にして恩返しをしよう、という取り組みで。私も地元「京都府・橋本」の冊子を2冊作っているんです。



ーーあべさんの地元・橋本はどんな町なんですか?


あべ :橋本は、大阪よりの京都で、元々は「遊郭」の町ということもあり、歴史的な建造物がすごく美しい町です。私は25歳くらいまで、橋本の町に住んでいたのですが、最近では開発が進み始めて、そういった建造物も少なくなっていて。何か形に残せたら、と思って絵を描いています。


「目に見えない美しさ」を追求するアート


ーーあべさんが制作をする過程で、1番楽しいと感じるのって、どの瞬間ですか?


あべ :単純に「描く」という作業が、めっちゃ楽しいですね! 描いている時はいつも「楽しい〜〜!!」って感じです(笑)。


THELONIOUS_MONK


ーー結構アゲアゲなテンションで描いているんですね(笑)


あべ :どうなんだろう、でも気持ち的にはそんな感じかも(笑)。


ーー逆に、落ち込んでいる時や、気分が乗らないような時は?


あべ :んー、そういう時があまりないような気もします。というよりも、気づかないのかもしれないです。「スランプ」と、よく世間の人は言うけれど、そういうものを体験した事がなくて。絵以外にも、色々なことをやっているので、うまく分散できているのかもしれないですね。やっていること全てが楽しいんですよ。


ーーそういえば、前にインタビューさせていただいた時に、「即興舞踊やライブペイントなどと、芸術の融合的なイベントをしたい」とおっしゃっていましたよね。


あべ :そうそう。その夢が今実現しそうなところなんです! 音楽と絵画のコラボレーションなんですけど、私の描いた作品を元に、マリンバ奏者の方が曲を作ってくれて、それを生演奏しつつ、絵を展示しつつ、私は絵について語る、という。


ーーすごい! どういう経緯でそのイベントが企画されたんですか?


あべ :そのマリンバ奏者の方は、元々絵画が好きだそうで、絵画をモチーフとして作曲をし続けている方なんです。なので、気に入った絵画があったら、作家にコンタクトを取って、その作品について音楽を作るということをやっているそうで。実は、その縁を繋いでくれたのが、Casieのオークションイベントで出会った、アーティストの福本 清華さんなんですよ。


ーーへーー! なんだか私も嬉しいです。


あべ :そうなんですよ。まさにやりたい事が実現して、本当に嬉しいのですが、なんせコロナウイルスの影響でこんな状況なので、4月末での開催が難しそうで……。無事終息したら、こういうイベントをたくさんやっていきたいですね。


目に見えることを前提としたアートだからこそ「目に見えない美しさ」をも追求したいんです。音楽や舞踊、文学のような芸術をミックスして、それを一気に体感できるような。そんな「五感で感じるアート」をこれからも作っていきたいですね。



Best Art Spot

あべさんがアートを感じるスポット


円山公園の桜 / 京都府京都市


あべさん撮影


京都にある円山公園の「枝垂れ桜」が、大好きです。この桜は画家・東山魁夷さんの「花明り」という作品のモデルにもなっているのですが、私はその絵があまりにも好きすぎて、大学時代「花明り」をモチーフにしたダンスを作ったり、祇園にアパートを借りたぐらい(笑)。

この写真は、2000年4月17日の午前4:00に撮った写真です。フィルム一眼レフでシャッタースピードゆっくりにして根気よく寒空で撮った思い出があります。この桜の朝の満開を見たいがために、わざわざ祇園に少しの間住んでいたのです。



そして、私自身も、この桜をモチーフにした作品を2つ描いています。今は寄贈してしまい手元にはないのですが、とても思い入れのある作品ですね。


My Rule

あべさんが絵を描く上でのルール


「寝っころがって描くこと」



ルールとして意識している訳ではないのですが、幼い頃からの習慣みたいなもので、床にゴロンと寝っころがって絵を描くことが多いです。人には、とてもお見せできないような姿で描いています……(笑)。