消滅 α ( 珍竹林 8 )

「ノーテーマ」であることがテーマ

兵庫県出身、沖縄県在住のアーティスト。武蔵野美術学園油画科修了。千葉大学工学部デザイン工学科卒業。明石工業高等専門学校機械工学科卒業。

- 絵を描くようになったきっかけは?
自分の場合、何歳の、どの出来事というような特別なきっかけはないのですが、中学生ぐらいの頃から「モノづくりを通して自分を表現したい。それも自分の思いやこだわりを活かして...」という希望がなんとなくありました。

- 作品のテーマにしている事は?
重層的、唯一性、など絵画が持っている物理的な特性を最大限に活用することです。
イデオロギーや、政治、社会の状況に直結したり、他の表現ジャンルを説明するような作品は作りたくないと思っています。
そういう意味では「ノーテーマ」で、「ただの絵画であること」が、自分のテーマ。
絵画でしかできないことを自分のやり方で探究しています。

- これからどのような創作活動をしていきたいですか?
シンプルに素直に「絵画を作り続ける生き方」を全うしたいです。そして、その生き方が、そばにいる家族、他者から搾取せずに自立していることが大事だと思っています。その生き方から生まれた作品が結果的に他者に共感してもらえるものであれば嬉しいです。

「消滅」シリーズは林をモチーフにした風景画につけているタイトルで、林立する樹々の中に入った時に作者が感じた、自我がスーッと消えるような感覚の提示が同シリーズのテーマです。
「α」は林という具象的なモチーフでありながら、それを抽象的にカスタマイズしたになっていることを意味しています。

通常の「消滅」シリーズは、形的にも色的にもリアル寄りの風景画なので制作当初はリアルよりの竹林としてのフィニッシュをそ想定したレイヤー構成で塗り重ねていきました。しかしそのレイヤーの重なりを研削しながら変化していく画面をモニターしていくと、「このレイヤー構造は、竹と背景が溶け合って、画面全体としては『竹林の風景構造を元にした抽象画」に』することを求めている」と感じました。理屈というよりかは直感のような気づきでしたが、結果その気づきに基づいた処理で仕上げて良かったと思っています。

制作の流れとしては、原寸大の線画をトレーシングペーパーに作成します。 そして、塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングしたら、下地処理した合板パネルの上に線画を転写して本制作に入ります。
使用パネルは表裏両面貼り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。 画面には、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上描写としての塗りを重ね、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削していきます。削っては画面をモニターすることの繰り返しで完成と思える画面が現れてきます。

絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。
制作を志した頃からの私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。 以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。