アートは見た目だけではなく、アーティストによって込められた想いや自分の想いを表現するために使用している技法など様々な角度から知る楽しさがあります。この記事では、さまざまな作品の姿を紹介します。
今回は流れるように「空間」を泳ぐ「儚くも美しいものたち」を描く小堺勝さんの作品の姿に迫ります!
「人が感動するときは何かに対して共感したときだと思っています」と話す小堺勝さんの作品には一体どんな背景があるのでしょうか?
小堺勝
新潟県出身、千葉県在住のアーティスト
武蔵野大学工芸工業デザイン学科金工専攻卒業。2017年には武蔵野美術大学卒業制作優秀賞、2018年には池袋アートギャザリング入選など様々な賞をこれまでに受賞。
幼少期の頃から「自分で何かを作ることが好きだった」小堺さんは幼少期の頃に感じた「空気の中に存在するものとして川の流れ、ある種の生物の抜け出した殻のような儚さ、空気感を意識した作品」を制作しています。
《遊泳-アカウミガメ-》
↑《遊泳-アカウミガメ-》
幼少期から好きだった動植物の中でも海をテーマに描いた《遊泳-アカウミガメ-》。どこか神秘的な印象を受けるウミガメをモチーフとして、海の水の中へと消えていくような姿が泡絵として描かれています。
泡絵として描く人の共感
現代アート作品を数多く手掛ける中で自らが描く作品の表現の幅を広げるために幼少期の頃から好きだった動物や昆虫、植物など様々な生き物たちを描いてます。
海をテーマに描かれた《遊泳-アカウミガメ》はあえて具体的に描かずに半抽象的に描くことで、アカウミガメの神秘的な美しさを感じると同時に幻想的な印象と現実的な印象の両方を受ける作品となっています。
「人が感動するときは何かに共感したときだと思っています。海に入った時に感じる自分がどこかに消えていくような不思議な感覚。そんな感覚をこの絵を通して感じて、共感して頂ければ嬉しいです」と語る小堺さんは、《遊泳-アカウミガメ-》を泡絵として描くことで自らの想いを表現しています。
どこかへと消えていく不思議な感覚の表現
風が吹いた時や海や川に入ったときなど、普段の何気ない日常の場面で自分の体の一部がどこかへと消えていくような感覚を味わったことがある人も多くいるのではないでしょうか。
《遊泳-アカウミガメ-》では、作品の下部は曖昧に描き泡を強調しており、作品上部にかけてはっきりと描くことで、普段私達が日常の中で時々体験する自分の体の一部がどこかへと消えていくような不思議な感覚を表現しています。
↑《遊泳-アカウミガメ-》部分
「カメと聞くとなんだか人がカメの上に乗っている姿をイメージするんです」と話す小堺さんは、あえてカメをシンメトリックな構成で描くことで自分が思い描くカメのイメージを表現しています。
美しさ溢れる奥深い海
美しく奥深しさのある青色で表現されている《遊泳-アカウミガメ-》の海。
美しい青色を描くために、黒色の下地がこの作品では使用されています。黒色の下地を使用し、あえて下地の黒色を露出させながら描くことで、青色の絵の具の発色をより美しく見せることができます。
↑《遊泳-アカウミガメ-》部分
奥深しさと共に感じる季節感
「リビングなどにインテリアの一部としても飾ってもらいながら、夏らしい涼しさを感じてくれたら嬉しいです」と小堺さんは話しています。
あえて作品を額縁に入れないことで、原画ならではの実物感を感じることのできる《遊泳-アカウミガメ-》。
この作品を通して、奥深しくも美しいアカウミガメを夏の涼しさと共に感じてみてはいかがでしょうか。
《花手水-琉金-》
↑《花手水-琉金-》
花手水とは、神社やお寺でよく見られる手水舎や手水鉢に色とりどりの花を浮かべることを意味しています。偶然知った花手水の美しさに惹かれたことをきっかけに、花手水と金魚の種類の一種である琉金をかけ合わせて描かれた《花手水-琉金-》。
描く春らしさとそこに込められた想い
《花手水-琉金-》は春に春をテーマとして描かれた作品です。
側面から見た構図は既に描いた経験があった小堺さんは、俯瞰的な構図で作品を描くことにしました。
自分の好きな動物の1つである琉金と偶然知りその美しさに惹かれた花手水を掛け合わせて描かれた《花手水-琉金-》には、「環境的な部分などの様々な理由からペットを飼うことのできない人もきっと多い中で、この絵を通してどこか自分の好きな生き物が家にいる気分を味わってほしい」と話す小堺さんの想いが込められています。
爽やかな印象の裏に隠された難しい水の表現
春らしい爽やかな雰囲気を感じる《花手水-琉金-》。
水の表現に青色を使用すると作品全体が重たい印象になってしまうため、あえて青色はそれほど使わず、緑色などの補色を使うことで爽やかな印象を受ける作品にしています。
しかし、青色をあまり使わないことで難しくなる水の質感の表現ですが、葉の上に水滴を描き、表面張力によって葉の上に留まる水を表現することで難しい水の質感を表現しています。
↑《花手水-琉金-》部分
花びらや葉を水の上や金魚の上に被せて影を描くことで、琉金たちが泳いでいる様子も表現されています。
夏の風物詩「金魚」
作品全体から受ける印象を爽やかなものにするために新たに挑戦した表面張力によって葉の上に留まる水の表現ですが、「水の不定形さがゆえに難しさのある表現方法でした」と小堺さんは話しています。
夏のお祭りでよく見かける金魚すくいがあるように、《花手水-琉金-》から春や夏の季節感を是非味わってみてはいかがでしょうか。
《泡絵 カラスアゲハ》
↑《泡絵 カラスアゲハ》
「切り取られた場面が捉えられる作品の方が見てくれる人の共感に繋がると思う」と話す小堺さん。
《泡絵 カラスアゲハ》は、夜を舞うカラスアゲハの姿が描かれている作品です。
美しく夜空を舞うカラスアゲハに魅了されて
小堺さんは自身が住んでいた街で度々カラスアゲハを見かけていました。そんなカラスアゲハの美しさに魅了され、いつしかカラスアゲハは小堺さん自身の中でも好きな昆虫の一つとなっていました。
《泡絵 カラスアゲハ》は、美しく宙を舞うカラスアゲハを描きたい想いから生まれた作品です。
「夜の散歩が好きなんです」と話す小堺さんが体験した空気の中に自分の一部が溶けていくような感覚を美しい夜空の中に消えていくカラスアゲハとして作品に表現しています。
カラスアゲハの複雑な色合いの表現
一見すると黒色に見えるカラスアゲハですが、実は複雑な色合いをしています。
カラスアゲハの複雑でありながらも美しい色合いを表現するために、アクリル絵の具の構造色の一種であり、ターナー色彩株式会社が販売している「玉虫色」がカラスアゲハに使用されています。光の当たる角度によって発色が異なる特徴を持つ構造色を用いることで、見る角度によって青色や紫色など様々な色の顔を見せるカラスアゲハの複雑な色合いを表現しています。
↑小堺さんが普段使用している画材(写真提供:小堺さん)
↑《泡絵 カラスアゲハ》部分
実物でしか感じることのできない美しい色合い
構造色によって表現されているカラスアゲハの複雑ながらも美しい色合いは実物でしか感じることのできないものです。
光の当たり方や見る角度によって異なる美しい色の顔を見せる《泡絵 カラスアゲハ》を、実際に自分の目で味わってみてはいかがでしょうか。
《音が聞こえる》
↑《音が聞こえる》
貝殻に耳を当てて音を聞く様子から作品名として名付けられた《音が聞こえる》。
黒色をベースとした作品をこれまで数多く制作してきた小堺さんですが、普段とは少し違った雰囲気の作品を描きたい想いをきっかけに、白色をベースとした作品として描かれたのが《音が聞こえる》です。
小堺さんは「リビングなどに飾って、夏らしい清涼感や季節感を是非味わって楽しんでほしい」と話しています。
明るい色のみで描かれた立体感ある美しさ
重たい印象になることを避けるために暗い色を使わず、明るい色のみで描かれている《音が聞こえる》ですが、明るい色のみで描くことで色のコントラストを出すことができなくなるため、立体感や貝殻の存在感の演出が非常に難しくなります。しかし、貝殻の周りをあえて曖昧に描き、微妙に色を暗くした影を描くことで貝殻の立体感を表現しています。
↑《音が聞こえる》部分
夏らしい爽やかさを表現するためにきめ細やかな光沢のある白色をベースとした下地が使用されていることも《音が聞こえる》の特徴的な技法の1つです。
↑《音が聞こえる》部分
様々な色から成る夏
《音が聞こえる》は作品全体を見ると白色をベースとした作品ですが、実際には数多くの様々な色が使われています。様々な色から成る《音が聞こえる》は実際に自分の目を通して見ることで、より美しい作品の姿を感じることができます。
「朝起きてからこの作品を見て夏らしい清々しさを感じて爽やかな気持ち担ってもらえたら嬉しいです」と小堺さんは話しています。
ぜひ《音が聞こえる》を通して、夏らしい爽やかで清々しい雰囲気を感じてみてはいかがでしょうか。
《月夜》
↑《月夜》
小堺さん自身が好きな幻想的な情景や風景が作品として描かれた《月夜》。
アーティストとしての原点の作品
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科金工専攻卒業の小堺さんですが、卒業後は騒音等の関係から金属工芸をすることができませんでした。
大学を卒業した後に作家のアシスタントに入ることになった小堺さんは一人暮らしをすることになったことをきっかけに、金属工芸の代わりに絵を描くことを始めました。《月夜》は絵を書き始めた当初に小堺さんが描いた作品の1つです。
《月夜》は、絵を書き始めた当初は作品のテーマが定まっていなかったこともあり、当時小堺さんが好きだった幻想的な風景とクジラをかけ合わせて描かれ、小堺さん自身にとってどこか懐かしさを感じる作品です。
絵の具とペンによって描かれた最初の作品
数多くの作品を制作している小堺さんですが、小堺さんの作品の多くは絵の具とペンの両方を用いて描かれています。《月夜》は、そんな小堺さんならではの表現方法が生まれた最初の作品です。
↑《月夜》部分
《月夜》の中に描かれている海は紫色を始めとした様々な色を組み合わせることで、夜の深い綺麗な海を表現しており、どこからか作品から感じる幻想的な雰囲気を演出しています。
↑《月夜》部分
楽しむ落ち着いた作品の雰囲気
「《月夜》は落ち着いた雰囲気の作品となっているため、寝室などの安らぎの場に飾って楽しんで頂けたら嬉しいです。小さなサイズの作品なので、自分好みの他のアートと組み合わせながら自分だけのアートを楽しんでもらえたらと思っています」と小堺さんは話しています。
↑左:《月夜》、真ん中:《朝日に泳ぐ-ベタ-》、右:《朝のイチョウ並木》
自由で無限の世界が広がるアートだからこそ実現できる自分の世界観を《月夜》を通してぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
最後に
今回は流れるように「空間」を泳ぐ「儚くも美しいものたち」を描く小堺勝さんの作品についていくつか紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
小堺さんは武蔵野美術大学卒業制作優秀賞(2017)を始め、池袋アートギャザリング入選(2018)など様々な賞を受賞しながらも、アートだけでなく、ブログやYoutubeなど幅広い表現活動にも注目が集まるアーティストです。
数多くの現代アートを手掛ける小堺さんですが、Casieにある小堺さんの作品では小堺さんが幼少期の頃から好きな動植物の絵が数多くあり、数々の現代アートを描く小堺さんとは少し違った小堺さんの一面を作品を通して見ることができます。ぜひあなた自身の目で美しい動植物たちの絵を見てみてはいかがでしょうか?