おしえて制作のヒミツ|「“自らのスタイル”で描く、筆跡のないアート」坂本 千春さん

アートは見た目だけでなく、アーティストによって込められた想いや制作の裏側に隠れたエピソードなど、様々な角度から見る楽しさがあります。そんな数多くの作品たちの一風変わった姿を紹介するのが、おしえて制作のヒミツ。


今回は「“自らのスタイル”で描く、筆跡のないアート」をテーマに坂本千春さんの作品の魅力に迫ります!


坂本千春
第20回全日本アートサロン絵画大賞展/自由表現部門・第20回記念審査員特別賞(建畠晢 選)、月のアート展vol.8/vol.9 2年連続一般投票賞など受賞実績多数。綺麗なグラデーションや筆跡のないエアブラシアートに魅せられ、2007年から独学で本格的にエアブラシを用いたアクリル画制作を開始。「自然」をテーマに海・花・光の3つをモチーフとした作品を数多く制作する。


《波の間に間に -クジラ-》


サイズ:H33.5cm × W24.0cm


遠出すれば必ず近くの海へと足を運ぶほど「海」が大好きな坂本さん。

気づけば「まだ見たことのないクジラをいつかこの目で!」という想いが芽生えていたそう。


《波の間に間に -クジラ-》は、そんな彼女の理想郷である「夕陽に染まるオレンジ色の海を泳ぐクジラ」が描かれた作品となっています。


この作品には一体どんなヒミツが隠されてるのでしょうか?


ヒミツ①「画材の欠点は画材で!」


1つ目のヒミツは、画材を掛け算することで生み出した“立体感の表現”に迫ります。


筆跡が残らず、均一な色のグラデーションが特徴のエアブラシアート(※1)。

美しい統一感のある色合いが生まれる反面、フラットな仕上がりになってしまうデメリットもあるそうです。


↑坂本さんが普段使用しているエアブラシ(写真提供:坂本千春さん)


※1
エアブラシとは?
圧縮した空気に塗料を吹き付けることで塗装する道具。絵の具が霧状に噴出されるため、筆を使った描画では出せない均一なグラデーションを作り出すことができるほか、筆跡が残らないことも特徴の一つです。


すべてがエアブラシによって描かれている彼女の作品ですが、《波の間に間に -クジラ-》をよく見ると、凹凸感があるような気がしませんか?


↑《波の間に間に -クジラ-》部分


その秘密はキャンバスの下地にありました。

使っているのは、「モデリングペースト」という画材(※2)。

画材の“乾くと固形化する特徴”を利用することで、エアブラシだけでは表現することのできない立体感を演出できるのだそう。この作品では、「波」の表現に使われているのだとか。


筆だけでは描けない立体感のある波と、美しいオレンジ色のグラデーションがとても美しいですよね。


※2
モデリングペーストとは?
アクリル樹脂100%と大理石の粉末からできたパテ状の下地剤。乾くと固形化するため、立体感を表現することができます。


↑坂本さんが普段使用している画材(写真提供:坂本千春さん)


ヒミツ②「アナタの雲はどんな色?」


2つ目のヒミツは、一つの絵の中に描かれた“存在感の対比”に迫ります。


“雲”と聞くとみなさんは何色を想像しますか? 白色を想像する人が多いはず。


白い雲が描かれている作品はこの世に数多く存在します。

しかし、《波の間に間に -クジラ-》で雲に用いられている色は何故か「グレー」。


あえて、雲にグレーを使うことで、存在感のある雲を描くことができるのだそう。


↑《波の間に間に -クジラ-》部分


一つの絵の中で“存在感の差”を楽しむことができるのは、この作品の魅力ですね。


《波の間に間に -クジラ-》は、アーティストの“思い出”と“願い”から生まれたアート。だからこそ、あなたの思い出の品と一緒に飾るのも一つの楽しみ方です。旅行が好きな人は「旅先の思い出の品とこの作品を一緒に…!」なんていうのも良いかもしれません。


是非この作品で、あなただけの思い出空間を作ってみてください。



《ブルーエンジェル》


サイズ:H65.3cm × W53.0cm


「常に自分の中に残る印象的な記憶を絵にしたい」と話す坂本さん。そんな彼女の中に残る奄美群島でのダイビング経験をもとに描かれたのが《ブルーエンジェル》。『奄美を描く美術展』という公募展に出展された作品だそう。


↑坂本さんが実際に訪れた奄美大島(写真提供:坂本千春さん)


では、この作品には一体どのようなヒミツが隠れているのか、見ていきましょう!


ヒミツ①「筆では再現できない泡の描き方」


1つ目のヒミツは、筆では描くことのできない“泡の表現”に迫ります。


まるで本物のような存在感溢れる泡が無数に描かれているこの作品。一体どのようにして描かれたのか、気になりませんか?


そのヒミツは、画材ではなく、彼女の工夫した描き方に隠されていました。実はこの泡、様々な形に切り取った紙をキャンバスに置き、その上から色を吹きかけて描いたのだそう。


↑《ブルーエンジェル》部分


まるで本物のような泡は、エアブラシアートならではの表現。

エアブラシアート特有の魅力に着目すると、より楽しいアート鑑賞になりそうです!


ヒミツ②「泡の中に広がる無数の泡」


2つ目のヒミツは、泡の中に広がる無数の泡。


↑《ブルーエンジェル》部分


絵具の使い方にヒミツがありました。


Step1:液体のアクリル絵の具を泡立てる。

Step2:泡立てた絵の具をエアブラシのカップ内に注ぐ。

Step3:キャンバスにのせていく。


このように描くことで、泡の中に広がる不規則な無数の泡を描いているのだそう。ちなみに、この表現は、エアブラシアートならではの描き方なのだそうです。


また、泡に反射する光が描かれていることに気づいた人もいるのではないでしょうか? この光、なぜだか全く違和感がありませんよね。


立体的で柔らかみのある光を表現することができるのも、筆跡が残らないエアブラシアートならではの表現なのだといいます。


彼女はこの作品について、こう話します。

「躍動感溢れる美しい海中の一瞬をこの絵を通して疑似体験してもらえたら嬉しいですね」


自然を家の中で味わうことができるのもアートの魅力。是非、あなたも自然を感じてみてください。


最後に


今回は「“自らのスタイル”で描く、筆跡のないアート」をテーマに、坂本千春さんの作品を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?


エアブラシと様々な画材を組み合わせることで実現される幅広い表現。坂本さんの描くエアブラシアートには、彼女ならではの工夫やオリジナリティあふれる表現が詰まっていました。一点物の原画だからこそ楽しめる質感と美しい色合いのグラデーションをあなただけの空間で是非楽しんでみてください。