おしえて制作のヒミツ | 「影の美しさ」を描く西川美南さん

アートは見た目だけではなく、アーティストによって込められた想いや自分の想いを表現するために使用している技法など様々な角度から知る楽しさがあります。この記事では、さまざまな作品の姿を紹介します。


今回は影の美しさを描く西川美南さん(以下、西川さん)の作品の姿に迫ります!

「影は影でも1つとして同じ色の影はなく、そんな影の美しさを表現したい」と話す西川美南さんの作品には一体どんな背景があるのでしょうか?


西川美南
滋賀県出身、京都府在住のアーティスト
影響を受けた人物:印象派やポスト印象派などの鮮やかな風景画が好きです。また、作家に関わらず牧歌的・土着的な文化や風景に興味があります。
作品のテーマ:見ていて気持ちの良い作品になればいいと考えています。風景画ひとつでも、見る人によっては遠い場所に見えたり故郷に見えたりすると思いますが、どちらの人にとっても心地よい絵が描けるようにしたいです。


《2020.08.11》


↑《2020.08.11》


「自らの大切な記憶の一片を忘れないように」の想いから作品のモチーフとなった写真の日付が作品名となった《2020.08.11》。


千畳敷の迫力に魅了されて


ある日の朝、友人に声を掛けられ急遽行くことになった和歌山県の千畳敷で、西川さんは何層にも重ねられた岩とその影の圧倒的な美しさに魅了されました。この作品は、そんなダイナミックな地層を見ることができる和歌山県の千畳敷がモチーフとなっています。


↑《2020.08.11》のモチーフとなった写真(写真提供:西川美南さん)


日常生活の中で自分が美しいと感じたものを描くと決めている西川さんは「この絵を見る人にとってもどこか美しさを感じる絵であって欲しい」と話しています。

和歌山県の千畳敷がモチーフとなっているこの作品ですが、一度「自分フィルター」を通し、あえて細かな点までは描かないことで、「この作品を観た人の中に眠るどこか懐かしい想い出が連想されたら嬉しいな」といった西川さん自身の想いが込められています。


自身初の挑戦と切り立つ大岩盤の表現


《2020.08.11》は1つの風景画の中にも、荒波や切り立った大岩盤などどこか力強さを感じる作品です。

平筆のみで描くことによって、絵のモチーフである千畳敷の切り立った大岩盤や海の荒波を表現しているそうです。


↑《2020.08.11》部分


また、一般的に絵の具をキャンバスにのせる前に下地として絵の具の発色を良くすることを目的に使用されるジェッソを、この作品では千畳敷ならではの無数の岩のザラザラ感を表現するために砂系のジェッソが使われています。


↑《2020.08.11》部分


さらに、西川さん自身初の挑戦だったのが、水可溶性の油絵具の使用です。

「《2020.08.11》では水彩画と油絵具の中間の質感を出したい」と考えていた西川さんは、自身初となる水可溶性の油絵具の使用に挑戦しました。西川さん自身の想像以上に良い色を出せたこの挑戦は、本人も「やってみてよかったと感じている」と話していました。


↑左:一般的な油絵具、真ん中:油で溶いた水可溶性油絵具、右:水で溶いた水可溶性油絵具(写真提供:西川美南さん)


見る距離によって変わる印象の楽しさ


作品に描かれている岩の部分は遠くから、あるいは、近くからなど見る距離を変えることによって違う印象を受けます。

細かく表現されている部分やそうでない部分など見る距離によって違った顔を見せる《2020.08.11》は見る人によって違う楽しさがある作品です。


見る距離によって生まれる作品の異なる顔を是非自分の目で体験してみてください。




《小風景(福知山)》


↑《小風景(福知山)》


「自らの記憶の中にこの場所をとどめておきたい」そんな想いから作品のモチーフとなった地名を作品名とした《小風景(福知山)》。


↑《小風景(福知山)》のモチーフとなった写真(写真提供:西川美南さん)


福知山にある実家へとご両親の運転で帰省する道中に広がっていた一面真っ白な雪景色や雪景色の間にまたがる道路越しで異なる影の色に魅了され、「キャンバスに描きたい」想いから描かれた《小風景(福知山)》は、その名の通り福知山の風景がモチーフとなっています。

作品自体のサイズ感も大きくないこの作品は、「重たい気持ちで描いた作品ではないため、インテリアの一部など、どこかカジュアルな気持ちで気軽に楽しんでほしい」と西川さんは話しています。


柔らかい質感と透明感の表現


《小風景(福知山)》は柔らかい質感や透明感を感じながらも、ぼやっとせず、はっきりとした印象を受ける作品です。

「人の記憶は常にはっきりとしたものではなく、何かぼやっとしているもの」と話す西川さんは、一般的な水の量よりも多い水の量を透明水彩絵具の中に混ぜることで、透明感と柔らかい質感を表現しています。


↑《小風景(福知山)》部分


ぼやっとした印象を受けやすい水彩画ですが、影は影でも1つと同じ色をした影はなく、微妙に異なる影の色合いがこの作品では表現されています。


↑《小風景(福知山)》部分


作品を制作していく中で「枠にとらわれず、その場その場で自分が良いと思った描き方をしていきたい」と考える西川さんは、下書きはせずにこの作品を制作しており、西川さんらしい作品となっています。


感じるレトロな雰囲気


「福知山は少し田舎で訪れるたびにどこか昭和な雰囲気を感じるんです」と話す西川さんは、「《小風景(福知山)》を見る人たちにもこの作品から少しでも昭和の雰囲気を感じてもらえたら嬉しいです」と話しています。

福知山の風景がモチーフとなったこの作品の手前に描かれている「田んぼの影」は西川さんが特に美しいと感じ、こだわり強く描かれた部分です。


↑《小風景(福知山)》部分


《小風景(福知山)》のどこからか感じる昭和のレトロな雰囲気を是非あなた自身の目でも味わってみてください。




《雪影》


↑《雪影》


抽象画として描かれたこの作品は「タイトルからイメージを伝えたい」といった想いから作品名が付けられた《雪影》。

《雪影》は、お正月に帰省したご両親の実家で過ごしたある日の朝、庭にある古い松の木とその下に広がる小枝に積もった雪の影の美しさに魅了され、「松の木特有の形や古木ならではの風格を絵画で表現したい」想いから描かれた作品です。


↑《雪影》のモチーフとなった写真(写真提供:西川美南さん)


作品のモチーフとなった古木は朝だったことから朝の清涼感や冷たい空気の表現を意識して描かれており、「この絵を見る人にも朝の清涼感や冷たい空気感を感じてもらえたら嬉しいです」と西川さんは話しています。

また、インテリアに馴染むようなアートを意識して描かれたこの作品には、絵として楽しむ他にも「部屋のどこかにあるアートやインテリアとしてのアートなど日常生活の中のアクセントとなる楽しみ方をしてほしい」西川さんならではの想いも込められています。


清潔感を感じる存在感のある影の表現


《雪影》は、清潔感がありながらも、どこか空気の冷たさを感じる作品です。


「影」と言われると「黒」をイメージしてしまいがちですが、影は影でも様々な色の影が存在します。

《雪影》では作品のモチーフとなる情景を見た朝の清涼感や空気の冷たさを表現すると同時に清潔感のある影を演出するため、黒に白や青を混ぜることで色の彩度を上げ、雪の中に映し出される清潔感のある美しい影が描かれています。


↑《雪影》部分


抽象画の《雪影》の中では影に存在感を持たせるために、重たいテクスチャー感が表現可能な油絵具で描かれています。

また、油絵具で一般的に使用される硬い毛の筆の筆跡が見られるのもこの作品の魅力です。


↑《雪影》部分


《雪影》の上部と下部で異なる雪の影の色は、松の木の異なる高さの枝に積もる雪によって生まれる影の違いを色の濃淡によって表現しています。

影に輪郭を持たせないことで、影ならではのぼやっとした曖昧な雰囲気を表現しているのは、影の美しさをこだわり強く描く西川さんならではです。


↑《雪影》部分


《雪影》を通して、作品を飾る空間の中に《雪影》ならではの朝の清潔感や清涼感を体験してみてはいかがでしょうか。




最後に


今回は影の美しさを描く西川さんの作品をいくつか紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?


幼少期の頃から絵をかくことが好きだった西川さんは、印象派やポスト印象派などの数多くの鮮やかな風景画をはじめ、牧歌的・土着的な文化や風景を好み、これまで作品を制作してきました。日常的に自分が気に入った風景は写真に収める習慣がある西川さんは、カメラロールを振り返ることで自分が描く絵についてインスピレーションを受けています。


そんな西川さんの作品は、どこか見る人の故郷を思わせるように感じる作品です。

是非あなた自身の価値観で懐かしい雰囲気を西川さんの作品を通して感じてみてください。