おしえて制作のヒミツ | 「自分の個性を大切に生きる」を表現するNIMさん

アートは見た目だけではなく、アーティストによって込められた想いや自分の想いを表現するために使用している技法など様々な角度から知る楽しさがあります。この記事では、さまざまな作品の姿を紹介します。


今回は「自由に、そして個性を大切に」を訴え、様々な真実の姿を描くNIMさんの作品の姿に迫ります!

「何かの枠組みに囚われるのではなく、自分の個性を大切にして自由に生きることが大切なのではないか」と考えるNIMさんの作品には一体どんな背景があるのでしょうか?


NIM
愛知県生まれ、愛知県在住のアーティスト
20歳から約20年間、映像デザイナーとして活躍する中で感じたデジタル表現への疑問をきっかけに、アクリル絵具やフェルトペンを使って絵画の制作を開始。主に「ホオズキ」をモチーフとした、独特な世界観の作品が、国内外にて注目を集めている。
Instagram:https://www.instagram.com/nimwinnim/


《ホオズキ【passion -火】》


↑《ホオズキ【passion -火】》


「自分の心の中にある溢れる想いをホオズキを通して表現したい」といった想いから名付けられた《ホオズキ【passion -火】》を含むホオズキシリーズ。葉脈に覆われている中の実が外に出てくるようなホウズキが描かれています。


偽りのない自分として生きる


今から3、4年前の絵を描き始めた頃、絵を始めるにあたってNIMさんは「自分の個性が出る絵は何か」をずっと考えていました。そんな中でたどり着いたのがホオズキです。映像制作関係の仕事をしていく中で感じた「自分のやりたいことができないことへのフラストレーション」や「お金のために偽る自分の存在への疑問」から「自分に正直に生きたい」といった想いが生まれました。そんな時にデフォルメされたホオズキをモチーフとして描かれた作品がないことを知り、ホオズキシリーズを描くことにしました。


「嘘や偽り」といったネガティブな表現がされているホオズキですが、NIMさんは「ホオズキの実は枯れると葉脈だけが残り、ホオズキの中にある丸い実が丸見えになります。これこそ隠し事のない、真実を表している姿ではないでしょうか。そんなホオズキは、まさに真実を表していると思います」と話しています。


何が真実で何が嘘なのかわからない混沌さを極める現代社会だからこそ、自分の心に正直生きる大切さをホオズキシリーズの作品では表現されています。


緻密に描かれるゴールドのホオズキ


ホオズキシリーズは、NIMさんの描く作品の中でも非常に緻密性の高い作品です。


ホオズキシリーズでは、粘着性の高い「ファイン・ゴールド・ディープ」色の絵の具が使用されています。一般的に何度も何度も重ね塗りしながら描くアクリル絵では、粘着性の低い絵の具を使用すると色にむらが出たり、背景が透けたりします。ホオズキシリーズの葉脈部分のように緻密性の高い細かな部分では絵の具を何度も重ねて塗ることができません。そのため、より質の良い絵の具を使用することが必要となります。粘着性の高い「ファイン・ゴールド・ディープ」色の絵の具を使用することで、背景色が透けず、むらのない、綺麗な発色のゴールドを実現しています。


↑「ファイン・ゴールド・ディープ」(写真提供:NIMさん)


また、ホオズキシリーズの中で「ファイン・ゴールド・ディープ」を使用して描かれている部分に着目して見ると、光の加減で微妙に見え方が異なります。


↑《ホオズキ【passion -火】》部分


アーティストの遊び心と気遣いの表れ


作品の側面にはホオズキの実の部分と同じ色が使われています。


額縁をつけた際には見えなくなってしまう部分ではありますが、NIMさんの「飾ってくれる人・見てくれる人に少しでも楽しんでほしい」といった細かなこだわりが表れています。


↑《ホオズキ【passion -火】》


NIMさんは「今の社会の中で自分を偽ったり、中々自分の欲望のままに行動できない人もたくさんいると思う。この作品1つで何かが大きく変わるとは思わないけど、「自分に正直に生きよう」だったり、「自分のやりたいことに挑戦しよう」と思うきっかけに少しでも成ってくれたら嬉しいですね」とホオズキシリーズに込められた想いを話しています。


真実を表すホオズキシリーズに込められたNIMさんの様々な想いを是非楽しんでみてください。





《無意識2》


↑《無意識2》


3歳や4歳の幼少期の気持ちを思い出すかのように、遊び心を持ちながらも無意識で描かれたことから名付けられた《無意識2》を含む無意識シリーズ。


人の潜在意識は優秀


ホオズキシリーズのように何かを意識して描く人の顕在意識により生まれた絵の横で、気分転換も踏まえた中で、人の潜在意識、つまり人の無意識領域で描かれ、生まれたのが《無意識2》を含む無意識シリーズです。


「「目を覚ますと昨日悩んでいたことが解決する」といった体験を誰もが経験したことがあるように、人間は顕在意識よりも潜在意識の方が優秀なのかなと思う」とNIMさんは話しています。意識的に描いているホオズキシリーズの横でただ何も考えずに無意識で描かれた無意識シリーズは「もっと人の潜在意識の中で絵を描きたい」といったNIMさんの想いから実験的に描かれた作品です。


↑《無意識2》部分


枠にとらわれない自由な生き方


無意識シリーズは、枠にとらわれず、その時その時の思いを描きたいように自由に描かれた作品です。


そんな無意識シリーズの作品には「枠にとらわれずに、時には枠から飛び出してみることもきっと大切」といったNIMさんの想いが込められています。


「わけがわからない。それこそがアートなのかもしれない」と話すNIMさんのように、アートを自分の好きなように自由に楽しんでみてはいかがでしょうか。


無意識シリーズに表現されているように、作品を通して自分の好きな飾り方でアートを自由に楽しんでみてはいかがでしょうか。





《abstraction of feeling【裂け目#11】》


↑《abstraction of feeling【裂け目#11】


開いているようにも閉じているようにも見える作品の中に赤い縦の線で表現されている裂け目が作品名となっている《abstraction of feeling【裂け目#11】》を含む裂け目シリーズ。


変化を求めて見つけた抽象画


作品の中に描かれている赤い縦の線にどこか違和感を感じませんか?


「本来はこの赤い縦の線がない方が1つの抽象画としてまとまった作品になると思うんです」と話すNIMさんは、「日常の中の無難なことに対して違和感を持つことの重要性や本当は才能があるかもしれないのに自分の個性を表現しきれずに周囲に押しつぶされてしまう今の世の中ってどこか少し悲しげで寂しいな」とも話しており、「違和感を認め合う社会になれば、赤い線で描いた裂け目の奥に広がる新しい世界や世界の変化の扉が開くかもしれない」といった想いから、作品の中に「裂け目」を赤縦の線で描くことで作品の中にある「違和感」を表現しています。


↑《abstraction of feeling【裂け目#11】》部分


「日常生活の中でも、人生の岐路(裂け目)は沢山溢れていて、自分の行動によっていつでも世界は変えることができる」といったNIMさんの想いがこの作品には込められています。


自身の初の挑戦と作品の中の違和感


《abstraction of feeling【裂け目#11】》を含む裂け目シリーズはペインティングナイフで描かれています。しかし、ペインティングナイフの使用はNIMさんにとって初めての挑戦でした。


「普段から数多くの緻密性の高い作品を手掛ける自分にとって、ペインティングナイフを使って絵を描いている人はどこか自由でかっこいい印象を受ける」と話すNIMさんは、自分の心の片隅にあった「自由に描きたい」といった想いを実現するために、自身初のペインティングナイフで作品を描くことに挑戦したそうです。


↑ペインティングナイフ(写真提供:NIMさん)


自身初の挑戦だったペインティングナイフを用いた作品の制作を通してNIMさんは「実際にペインティングナイフを使って絵を描くことは楽しかったものの、今後は2メートルほどのより大きな絵を自分の全身を使って表現し、制作したい」と話しています。


裂け目シリーズはペインティングナイフで描かれたこと以外にも色々な特徴があります。それは蛍光色で描かれている裂け目とノイズです。


これまでのNIMさんの作品では蛍光色は使用されていませんでした。しかし、「他のアーティストがやっていない新しいことに挑戦したい」といったNIMさんの想いから、新たな挑戦のスパイスとして蛍光色を裂け目や作品の中のノイズとして裂け目シリーズでは使用しています。


赤い縦の線で描かれている縦の線は新たな世界への扉を表現しており、様々な部分に散りばめられた蛍光色のノイズは人生で迷ったり悩んだりした時に思考し続けているとふとした時に感じる気付き(ヒント)が表現されています。


↑《abstraction of feeling【裂け目#11】》部分


見た人次第で広がる自由な解釈


裂け目シリーズの中に描かれている裂け目は、開いているようにも閉じているようにも見ることができ、裂け目の奥に広がるであろう世界に対する想像や裂け目から何かがでてくるのかもしれないと行った不思議な感覚など、この作品から受ける印象や思い描く想像は人によって十人十色です。


《abstraction of feeling【裂け目#11】》を含む裂け目シリーズでは、具体的とは言えない抽象的な不思議な面白さを体験することができます。是非実際に体験してみてください。





《To the next world》


↑《To the next world》


人間よりも感度の高い動物とされる猫が移りゆく世界の変化を人間よりも先に感じて扉の向こうへと足を踏み入れている様子が描かれている《To the next world》。


地の時代から風の時代への変化


金銭や権威、資産形成など人の目に見える「人の所有」に重きが置かれていた地の時代から、「個人の行動が重要」と言われる風の時代へと切り替わった現代を捉えるかのように、個人が個性を活かして自由に行動すれば新しい扉が開くのかもしれないといった思想が《To the next world》では表現されています。


《To the next world》の中でモチーフとして描かれている扉の向こうに行こうとしている猫は、一般的に未来予知ができるなど人間よりも感度が高い生き物とされています。作品の中の赤色は数多くの人が互いを意識し、競争し合っている世界を表すレッドオーシャンを表現しています。それとは逆に、扉の奥の世界として使われている青色は穏やかな波が流れ、新しい未開の地を表すブルーオーシャンを表現しています。


↑《To the next world》


反対色の赤色と青色で描かれながらもどこか美しさを感じるこの作品は、自由に、そして、個人を大切にする新しい世界へと移りゆく世界の変化の扉が開く様子が描かれています。


是非、世界の移りゆく変化を素敵な色合いの《To the next world》を通して体感してみてください。





《人間A》


↑《人間A


作品の中に描かれている人間の細胞にも見える白い玉と黒い玉が人間を表現しており、俯瞰図として作品をみるとたくさんの人が互いにすれ違っているようにも見え、日々の中で人が交わり、影響し合いながら生きている様子が表現されている《人間A》を含む人間シリーズ。


多角的に見る世界


《人間A》を含む人間シリーズは、《人間A》・《人間B》・《人間C》を含む3作品あり、3作品1つで1作品となっています。3つの作品は全て色の配置は異なりますが同じ色が使われてます。互いに同じ色が使われているにも関わらず、3つの作品からはそれぞれ異なった印象を受けます。


作品の中に描かれており、人間を表しているかのようにも見える白い玉と黒い玉は作品を上から見る俯瞰図だと人がすれ違ったようにも見え、日々の中で人が互いに交わり、影響し合っている姿が表現されています。


↑《人間A》


↑《人間B》


↑《人間C》


《人間A》を含む人間シリーズでは「人間は皆がほとんど同じなのに違って見える。性別、国籍、肌の色、髪の色、目の色、体型、髪型、服装、化粧、ネイル…。多様性に満ち溢れている。人間にも光と影がある中で、一方向から物事を見るのではなく、様々な方向から物事を見ることでお互いを思い遣ることが大切なのかもしれない」といったNIMさんの想いが込められています。


同じ色でも違った印象を受ける視覚のトリック


《人間A》・《人間B》・《人間C》の3作品で1作品となる人間シリーズですが、どの作品も全て同じ色が使われており、違うのは色の配置のみです。しかし、3作品から受ける印象は全く異なります。その違いは3作品を並べてみるとより明白です。


↑左:《人間A》、真ん中:《人間B》、右:《人間C》


同色を用いて作品が書かれているのにも関わらず全く異なる印象を受ける人間シリーズは、各作品ごとに1つ1つ楽しむこともできますが、3作品を1つの作品として楽しむことのできる魅力的な作品となっています。


同色が用いられながらも異なる色の配置によっていざなわれる視覚のトリックアートを是非体験してみてはいかがでしょうか。





最後に


今回は「自分の個性を大切に生きる」を表現するNIMさんの作品についていくつか紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?


NIMさんは台日藝術博覧会2019での展示や、フランス・パリ「サロン・アール・ジャポネ2019」グランプリなど、多くの実績を持つ実力派アーティストとして活動しています。20歳から40歳まで映像業界(広告業界)で映像デザイナーとして活動していく中でデジタル表現やビジネスでのクリエイティブ活動に疑問を持ち、アクリル画を描き始めました。


作品のモチーフであるホオズキは日本の花言葉では嘘、偽り、ごまかしというネガティブな意味を持っています。しかし、ホオズキの実は枯れると葉脈だけが残り、中身の実が全て見えるようになります。「中身の実がすべて見えるホオズキは、真実を表しているよう」と語るNIMさんの作品を是非あなた自身の目で見てみてください。