おしえて制作のヒミツ|「“静寂”と“安らぎ”を色で描く、色彩アート」mishaさん

アートは見た目だけでなく、アーティストによって込められた想いや制作の裏側に隠れたエピソードなど、様々な角度から見る楽しさがあります。そんな数多くの作品たちの一風変わった姿を紹介するのが、おしえて制作のヒミツ。


今回は「“静寂”と“安らぎ”を色で描く、色彩アート」をテーマにmishaさんの作品の魅力に迫ります!


misha
京都府出身、兵庫県在住のアーティスト。大阪芸術大学デザイン学科卒業。幼少期、描いた絵を両親に褒められたことをきっかけにアートの世界へ。見た瞬間に惹きつけられるような、爽やかで温かみのある色彩を大切に作品を制作する。


《雪の教会》


サイズ H44.5cm × W37.0cm


旅行が大好きなmishaさん。数多く訪れた旅行先の中でも、特に北海道の冬景色は絶景だったとか。


「幻想的な世界に迷い込んだかのように感じさせる美しい樹氷。吹雪の中に差し込む光は、まるで教会のステンドグラスのように美しく、どこかから賛美歌が聞こえてくるような感覚でした」


気づけば、日本や北欧の雪景色に魅了され、世界中の冬を描きたいと思ったのだそう。


これまで見てきた様々な雪景色の重なり合いから生まれた《雪の教会》。幻想的な美しい白銀の世界に広がる安らぎと希望が表現された作品となっています。


この作品には一体どんなヒミツが隠されているのでしょうか?


ヒミツ①「あえて描かないことで生まれる柔らかな質感」


1つ目のヒミツは、あえてはっきりと描かないことで生まれる“柔らかな質感”。


絵の具を使い絵を描くと、筆跡が残るイメージがありますが、mishaさんの作品を見ると筆跡や色の境界はないのが分かります。


あえてぼんやりと曖昧に描くことで、ふんわりとした柔らかな美しい質感を出すことができるのだそう。


↑《雪の教会》部分


実は世界の名画の中にも、輪郭線を曖昧に描く考え方を取り入れている作品があります。

その名画とは《モナ・リザ》。「スフマート」という技法が使われており、一見すると明瞭に見える輪郭線も、よく見ると曖昧に描かれていることが分かります。(※1)


スフマートの魅力について「まるで煙のように段々と消えていくような、ぼんやりとしたモノの表現に魅了されたんですよね」とmishaさん。


色の階調や優しい色合いに注目してmishaさんの作品を楽しんでみてはいかがでしょうか?


スフマートとは?
イタリア語の「sfumato(くすんだ)」が語源であり、輪郭線で形を区切らずに、もの自体の厚みや存在感、周りの空間を描こうとする技法。色彩や階調の間の柔らかな表現によって、よりリアルな質感を演出することができます。


ヒミツ②「色のマイルール」


2つ目のヒミツは、彼女ならではの“色のマイルール”に迫ります。


美しい色合いが魅力的な彼女の作品。綺麗な色調の裏には、色への強いこだわりがありました。


実は1つの作品を制作するにあたって、5・6色しか使用しないのだそう。あえて少ない色数にすることで、より綺麗な色合いの作品に仕上がるのだとか。


透明水彩絵具を使うこともmishaさんのこだわりです。(※2)


透明水彩絵具とは?
透明度の高い色をはじめ、淡い色合いや明るい色合いが特徴。ぼかしやにじみの技法で描かれることで、温かな深い味わいを表現することができます。


↑mishaさんが普段使用している画材(写真提供:mishaさん)


静寂の中に広がる安らぎと希望が表現されているこの作品。描かれているモノだけでなく、色調から自分の世界を広げることもアートの楽しみです。

是非あなたも、色の風情から広がるアートを感じながら、作品を鑑賞してみてはいかがでしょうか。



《特別な時間》


サイズ H53.7cm × W44.5cm


普段から積極的にお花屋さんへと足を運ぶのが日課のmishaさん。


いつものようにお花屋さんを訪れたある日。気づくとデルフィニウムの美しい青色の花に魅了され、購入していたのだそう。


大切な人との空間に飾られた華蓮な青色の花が描かれた《特別な時間》は、人への思いやりと優しさが表現されている作品です。


この作品には一体どんなヒミツが隠されているのでしょうか?


ヒミツ①「水彩画の中に生み出す色のインパクト」


1つ目のヒミツは、水彩画の中に生み出す“色のインパクト”に迫ります。


《特別な時間》は、他の作品とは全く違う方法で描かれた絵なのだそう。


水彩画は、すべて水彩絵の具で描かれることが一般的です。しかし、この作品は、水彩絵の具に加えて、パステルが使われているのだとか。


「優しい色合いの透明水彩絵具は、モチーフによって弱すぎると感じることがあるんです」と話すmishaさん。


パステルを使うことで、色の鮮やかさと強さを表現しているのだそうです。


↑《特別な時間》部分


水彩画でよく描かれる「ガラス」。


ほとんど手を加えずに描くことが、美しく描くコツなのだとか。ガラスの厚い部分や水に反射する光など、ポイントだけを描くことで、よりリアルなガラスの質感を表現することができるのだそう。


この作品では、花を生けたガラス花瓶が描かれています。


↑《特別な時間》部分


自然な色の混じり合いやにじみから生まれる独特な味わいが魅力の水彩画。モノの描き方にも注目してみると、より一層作品を楽しめそうです。


ヒミツ②「広がる世界観の表現」


2つ目のヒミツは、作品の中に広がる“世界観の表現”に迫ります。


作品の中に広がる様々な世界。

アーティストによって、多種多様な世界観の表現方法があります。


mishaさんは、背景色を“とある法則”で決めることで、彼女ならではの世界観を表現しているのだそう。

その“とある法則”とは、“モチーフの色を背景色”にすること。


たとえば、優しい青色の花がモチーフの《特別な時間》では、より絵の中の世界に引き込むために、背景を青色にしてあります。

「この作品の背景を赤色にすると、勢いのある絵になると思います。でも、青色の背景に空気感を統一することで、モチーフのデルフィニウムの優しい色合いを活かすことができるんです」とmishaさん。


↑《特別な時間》部分


世界観を表現するのは色だけではありません。


「額縁」にも彼女ならではのこだわりがありました。


何度も額装しては家に飾ってみて額縁を決めるmishaさんですが、風景画では“広がり”、静物画などでは“締まり”を大切に額縁を決めるのがこだわりだそう。


《特別な時間》では花の静物画を描いているので、引き締まった雰囲気を感じさせる銀色の額縁をセレクト。


↑《特別な時間》部分


大切な人との時間、自分を大切に思う時間、すべての人にとって特別な時間が表現された《特別な時間》。華やかながらも落ち着きのある花や温かなキャンドルが描かれたこの作品を、大切な人との空間に飾って楽しんでみてはいかがでしょうか。



最後に


今回は「“静寂”と“安らぎ”を色で描く、色彩アート」をテーマにmishaさんの作品を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?


寒色系の色が多く使われながらも、どこか温かな安らぎを感じる彼女の作品。色で表現するmishaさんのアートには、様々な創意工夫がありました。描かれているモノだけでなく、偶然的な美しい色の交わりを是非楽しんでみてください。