キャンバスに閉じ込めた
美しい「場面」と「記憶」
あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?
Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。
第18弾は、清水 佳代子。宮城県出身・宮城県在住の絵画アーティスト。色と色の混じり合いや偶発的に生まれる美しさを伝えるアートは、記憶や場面を閉じ込めポジティブに変換していく。
Casieでの人気シリーズ作品にまつわるエピソードやそのルーツとなる作品についても、たっぷり語ってもらいました。
清水 佳代子(しみずかよこ)
宮城県で生まれる。15年間の東京暮らしを経て現在は地元・宮城県で活動中。
体で感じた、
衝撃的な「絵」との出会い
ーー清水さんが絵を描くようになったきっかけは、とある作品との出会いだったそうですね。
清水 佳代子(以下、清水) :そうなんです。2004年頃、辰野登恵子さんの作品を観たことがきっかけでした。それまでもヨーロッパ旅行で美術館に行ったことをはじめとし、美術館やギャラリーで絵を観ることは好きだったのですが、東京都現代美術館で観た、辰野さんの作品にはかなり衝撃を受けました。
ーーその作品はどんな作品だったんですか?
清水 :「UNTITLED 90-14」(218×291cm)という無題の作品なのですが、縦横2〜3mくらいの大きな抽象画でした。赤と緑の鮮やかな色彩で、芋虫のような物体が画面いっぱいに描かれているのですが、それが何を描いているのかも全く分からないまま、ただその鮮やかな色に見惚れて、絵の前に立ち尽くしたんです。当時の私は偏頭痛持ちで、その日も朝から頭が痛かったのですが、気づいたらその頭痛が消えていて。その体験が、ものすごく衝撃的でした。絵ってこんなにも人を癒すことができるんだ……って。
↑「Flower(Van Dyke Red)」清水 佳代子
ーーただならぬパワーがあったんですね。
清水 :そうですね。その日は、人生の中でも大きな転機になりました。作品自体が素敵ということはもちろんですが、感覚的に「頭痛が消える」というのを体感したのはすごく大きくて。その時、漠然と「自分もいつかこんな抽象画を描けたらなぁ」と思ったんです。
余生は「絵」で生きていく
ーー辰野さんの絵に衝撃を受けてから、実際に絵を描き始めるまでは結構すぐだったんですか?
清水 :いえ、2年後くらいだったと思います。当時は地元・宮城の印刷会社に勤めていたので、すぐに会社を辞めることもできなくて。ただその2年間は「絵を描いてみたい」という思いが、どんどん強くなるばかりでした。実際に描き始めたのは、会社を辞めて上京してからですね。
ーー仕事を辞めて、宮城から東京へ行くのって、結構勇気がいりますよね!
清水 :そうですね。当時は20代半ばだったのですが「やるんだったら今しかない」、「この後はもう余生だ」と思って、決断しました(笑)。何か自分の人生の軸となるものが欲しくて、それが「絵」だと確信したんです。
↑「Mind Record #26 (お便りノート/青)」清水 佳代子
ーーそれまではほとんど絵を描いてこなかったとのことですが、まずはどんなことから始めたんですか?
清水 :派遣やアルバイトのお仕事をしながら、絵画教室に通って勉強をしたり、色彩論や素描論の本を読んだり。人に伝わる絵を描きたいと思っていたので、色彩そのものや色の組み合わせから受ける印象を学びながら制作していましたね。
ーー現在の制作活動にも、それらは活きていそうですね。
清水 :そうですね。今は下書きとかもせずに割と感覚的に描いているんですけど、頭の中には学んだことが入っているので、無意識ではありますが、冷静に客観視しながら作品を作っているような気がします。
記憶や場面を、
スクエアに閉じ込めて
↑「Mind Record #23」清水 佳代子
ーーCasieに登録いただいている「Mind Record」シリーズが、お客様から大変好評ですが、このシリーズはどのようにして生まれた作品ですか?
清水 :「Mind Record」シリーズは、混ざり合う途中の色や偶発的な表情を作り出していて、「感覚に訴える絵画」を意識しています。その中でも、自身の日記的な役割もあって、心の移り変わりを記録するライフワークという意味で「Mind Record」のタイトルがあります。
ーーなるほど。タイトルから想像しつつもすごく気になっていました!
清水 :ありがとうございます。実はCasieさんに登録している「Mind Record」シリーズには、前身となる作品があるんです。それがこの「Mind Record #7」というシリーズの中でも初期の作品です。
↑「Mind Record #7」清水 佳代子
ーーこれは枠が立体的になっていますね!
清水 :そうなんです。割り箸で窓枠を作っていて、そこに切り取った紙を入れて樹脂で固めています。今のMind Recordにあるタイル状の枠のきっかけとなっているものですね。
ーーへー、面白い! 「窓」というのは、現在の清水さんの作品の中でもよくテーマになるモチーフですよね。
清水 :はい、「窓」や「ドア」って、風景の一場面でありながら、何かの入り口やきっかけであると思うんです。あとは単純に、街中で見かけるタイルの感触が好きなんですよね。連なっている姿を見て、この1つ1つのタイルに場面があったらいいなと考えたんです。
↑「Gateway #1」清水 佳代子
清水 :最近では、自然災害やSNSの影響で変わっていく世の中を見て、新しいシリーズも制作中ですね。それがこの「Gateway」というシリーズです。
ーーMind Recordシリーズと共通点もありつつ、また違った雰囲気の作品ですね。
清水 :そうですね。Gatewayという単語は、入り口や玄関という意味があると思うのですが、もう1つ「違うネットワーク同士を接続するネットワーク機器」という意味があるんです。つまり、ネットワークをつなげる時に必ず通らなくてはいけない「接続ポイント」をさしているんですけど、このシリーズは小さいスクエアがタイル状になっていて。スクエアの1つ1つが意味を持つ一場面だとするならば、この作品は切り取られたシーンの集積になります。例え、深い悲しみだけが刻まれたように感じた出来事でも、時を経て、物事の持つ本来の意味に気づいた時、価値のある大事な経験に変換されるんじゃないかなと思っていて。この作品が、そういう観ている人の閉じ込められた遠い記憶を美しく変換させる接続ポイントになれたらいいなという思いを込めています。
自分自身も楽しむ「絵」を描くこと
ーー清水さんが「絵」を軸にした生活を始めて、かなりの年月が経ちましたが、今の清水さんにとって「絵」はどんな存在ですか?
清水 :絵を描き始めたのは、何かを表現したいということよりも、自分自身が感じた「癒し」を誰かに与えたいという気持ちからでした。元々、人とコミュニケーションを取ることは得意ではないのですが、他人や世界への関心はとてもあって。絵は、私にとって「コミュニケーションの手段」だったような気がします。
ーー言葉で伝える代わりに絵を描くような?
清水 :まさにそんな感じでしたね。でも、絵を描き続けていくうちに、いつからか「絵」に自分が支えられていることに気づいたんです。誰かに寄り添いたいと思って描いていた絵が、いつしか自分自身に寄り添っていてくれて。なので、今は誰かのためだけでなく、自分自身の為にも「絵」を描いているような気がしています。
↑「Destruction & construction」清水 佳代子
ただただ絵の具の感触を楽しんだり、自分自身の表現に集中したり。それが観る人へ伝わって、観る人も楽しんでくれる。そんなことを信じながら、制作しています。
Best Art Spot
清水さんがアートを感じるスポット
スターバックスコーヒー /
宮城県名取市
(引用:https://natori-aeonmall.com/shop/detail/46/)
地元、宮城県名取市のスターバックスコーヒーです。元々、名取にはおしゃれなカフェが全然なかったのですが、地元に帰ってきたときにOPENしていたので行ってみると、店内に絵が飾られていることに気づいて。それからは、こんなところに自分の絵も飾られたいなぁとか、ここでお茶している人たちが観て和むような絵を描きたいなぁとか、そんなことを考えながら、外を眺めたり、温かいドリンクを飲みながら、ゆったり過ごしています。
My Rule
清水さんが絵を描く上でのルール
「制作前は、
運動会前日の気分で」
私の作品は、アクリル絵の具を厚めに盛って完成させる絵が多いのですが、アクリル絵の具はすぐに乾いてしまうので、その間一歩も動けないなんていうこともあって(笑)。ものすごく体力を使うことになるので、制作する前の日にはめちゃくちゃ睡眠を取ったりして「明日は運動会!」くらい、万全のコンディションで挑むようにしています(笑)。
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