y gion CURATED ARTIST タニグチ カナコ

手足のモチーフと和紙の質感は
「つながり」のかたち

タニグチカナコ

1996年、広島県生まれ、京都府在住のアーティスト。京都精華大学大学院卒業。IAG award 2020 入選、第4回石本正日本画大賞展などの受賞歴を持つ。卒業後は、京都をベースに活動予定。

Instagram:https://www.instagram.com/puru_puru_club/

絵を描くことで、繋がっていく

ーータニグチさんの作品には「手」や「足」のようなモチーフが多く登場します。作品にはどんなテーマがありますか?

タニグチカナコ(以下、タニグチ) :人とのつながりや、その中に介在する感情のような、「コミュニケーション」がテーマになっている作品が多いです。なので、手足のモチーフを使って、つながりの形を表現したり、和紙を何枚も貼り合わせることによって、人の肌っぽい質感を演出したりしています。

taniguchiさんの作品

↑「wave」(2020年)
自身の作品を、デザイン的に再構築した作品です(タニグチ)

ーーこのようなテーマが生まれたきっかけは?

タニグチ :細かく説明すると色々な理由があるのですが、大きな理由として、私自身にとって「絵を描くこと」は“コミュニケーションツール”だということがあります。

ーーというのは?

タニグチ :絵を通して、私に興味を持ってくれたり、私のことを知ってくれる人が増えたり、絵を描いているという共通点で友達になったり。自分が絵を描くことによって、周りと繋がっていくような感覚があるんです。

ーーなるほど。そのことを意識し始めたのって、いつ頃だったんですか?

タニグチ :大学に入ってからだと思います。大学の友人との出会いもそうですし、展示などで誰かに作品を観てもらったり、購入してもらったりしたことが、このテーマに繋がっているのだと思います。

今後も「京都」をベースに

ーータニグチさんは2021年3月まで大学院に通われていたそうですが、普段の制作は学校ですることが多かったですか?

タニグチ :院生だからという理由もあるのですが、実はあまり学校に行かない学生で(笑)。在学中から、家で制作をすることの方が多かったですね。コロナ禍になってからは、より家で制作する時間が増えました。

ーーなるほど。

タニグチ :私の場合は、和紙を貼る作業が多いので、乾くのを待つ時間が結構あったりして。時間の使い方的にも家で制作する方が良かったりするんです。去年は、1年間休学をしていたので、その間には家の中でものすごい大きな作品を描いたり。

taniguchiさんの作品

↑「experiment」(2020年)
絵を描いた上に、薄い和紙を貼り合わせる事で独特の立体感を生み出しています。テクスチャーに注目して観てほしい作品です(タニグチ)

ーー休学を選んだのは、どんな理由だったんですか?

タニグチ :元々、休学をして復学をしたら留学に行きたいなと思っていたんです。なので、作品を制作しつつ、行きたいと思っていた海外の国に放浪しに行ってみたり。時間がある学生のうちにやっておいた方がいいこともあるなと思って休学したんですけど、こんな状況(コロナ禍)になってしまったのもあって、ほとんど実現できていない感じですね……。

ーー復学してすぐにこういう状況になってしまったということですよね。

タニグチ :そうですね。休学していた期間に少しだけ海外には行けたんですけど、復学後留学に行くことは叶っていないですね。休学中に訪れたベルリン(ドイツ)がすごく刺激的で、もう少し長い期滞在したかったなと。卒業後もフリーではあるので、また行けるような状況になれば、時間を取って行きたいです。

ーー本当に早く海外に行ける状況になれば嬉しいですよね。現在は、大学のある京都をベースに活動されていますが、大学卒業後も京都をベースに活動していく予定ですか?

タニグチ :はい、そのつもりです!

ーー京都を拠点にし続けることにはどんな理由がありますか?

タニグチ :大学で日本画を専攻していたことや、作品に和紙を使っていることから、自分の制作スタイルにあった環境が京都にはあるなと思っています。なので、今後も京都を拠点に活動していこうと思っていますね。

母の影響で「音符」を描いていた幼少時代

ーーそういえば、タニグチさんが絵を描くのを好きになったきっかけって、どんなことだったんですか?

タニグチ :子供の頃に足が悪くて、大学病院に通っていたんです。その診察までの待ち時間がすごく長くて、ずっと絵を描いていたんですよね。その時に「絵を描くのって楽しいな」って思った記憶があります。

taniguchiさんの作品

↑「連」(2020年)
部屋のような狭い空間で過ごす事が増えた日常の中でも、人との繋がりを求めるさまを表現した作品です(タニグチ)

ーーなるほど。当時はどんな絵を描いていたか覚えていますか?

タニグチ :自分が好きな物を描いたりもしていましたが、母が声楽家なので、その真似をして「音符」を描いたりしていました。祖父も音楽家で、母方の家系は音楽をやっている人が多いんです。

ーー芸術一家なんですね! もしかして、タニグチさん自身も何か音楽をやっていたりしたのですか?

タニグチ :私はやっていないんです。母自身が、祖父に無理やり音楽をやらされたのが嫌だったみたいで(笑)、無理にやらされることはなかったですね。なので、私は全然音楽に詳しくなくて。クラシックやピアノの音は聴いて育ったんですけど、自分で弾いたり、歌ったりすることはなかったです。

taniguchiさんの作品

↑「surface」(2020年)
日常の美しいと感じた物や事、日差しや水面などを抽象化した作品です(タニグチ)

ーー大きな括りでいうと同じ芸術の世界ですが、タニグチさんは音楽の道ではなく「美術の道」に進んだんですね。

タニグチ :そうですね。中学生も高校生もずっと美術部に所属していて、ずっと一番得意なことは「絵を描くこと」で変わらなかったんです。

ーー物心ついた時には、アーティストになりたいと考えていたんですか?

タニグチ :いえ、当時は「アーティストになろう」とは全く考えていなかったです。でも、小さい頃から「美大に入ろう」とは自分の中で意識していました。美大に入ってから、アーティストの道に進むことを決めました。

「コミュニケーション」は永遠のテーマ

ーー学生時代や幼いころ、絵を描くこと以外にハマっていたことはありますか?

タニグチ :高校生の頃からファッションがすごく好きで、その頃からアクセサリー作りを始めました。友達にあげたり、ちょっとしたイベントで販売したりとか。今も継続して作っていて、ウェブショップなどで販売もしています。

taniguchiさんのアクセサリーその1 taniguchiさんのアクセサリーその2

ーーアクセサリー、サイトで見てすごく可愛いと思っていました!

タニグチ :ありがとうございます! 高校時代「ファッションサークル」に所属していて。その時に出会った古着屋さんが、自分で物を作ったり、服をリメイクしたりしているのを見て、自分でもやってみたいなって思って始めたんです。

ーーファッションサークル!

タニグチ :サークルといっても、ただただお洒落をして集まる、という感じなんですけど(笑)。

ーーえーすごく楽しそうですね!

タニグチ :気の合う友達が多くて、すごく楽しかったですね。今思うと、ファッションも私にとっては「コミュニケーションツール」だったのかなって思います。自分が作ったアクセサリーを通じて友達を作ったりとか、人との繋がりを持つような。そう考えると、きっと「コミュニケーション」は、自分の人生の中で一貫したテーマなんだなと思います。

この先、東京や海外でも個展を開いてみたいなと考えていますが、今はこんな状況なので、ウェブ上での販売やレンタルを通じて、それぞれのお部屋で「つながり」を感じてもらえたら嬉しいです。

Best Art Spot

タニグチさんがアートを感じるスポット

新宿御苑の「温室」(東京都新宿区)

taniguchiさんがアートを感じるスポット

Photo: 石田小榛

新宿御苑(東京都)にある「温室」が、すごく好きです。新宿御苑自体も好きで、東京へ行った時にはよく訪れています。

ちょっと湿った感じの空気感や、珍しい植物も好きで、作品に直接影響しているかどうかは分からないですが、普段見ないようなめちゃくちゃ大きな植物とかを見ると、すごくテンションが上がります(笑)。

My Rule

タニグチさんが絵を描く上でのルール

「片付けをすること・道具を大切に扱うこと」

制作を始める前には、道具のメンテナンスと片付けをするようにしています。

元々、屏風や掛け軸を作る「表具」のコースに通っていたのですが、表具の先生は制作環境を整えたり、道具を綺麗に扱わないと怒るような厳しい先生だったんです。なので、この2つは作品を制作する上で、ずっと大切にしていることですね。