PICK UP ARTIST vol.29 櫻井

プラスでもマイナスでもない「ゼロ」を描く

あの絵を描く、あの人は、どんな人生を送って、どんなことを考えながら生きてきた?

Casieに所属する人気アーティストにインタビューするこの企画。

第29弾は、櫻井 絵里(さくらいえり)。生と死、夢と現実など、物事の間や真ん中を探るためにプラスでもマイナスでもない「ゼロ」を、フルイドアートの技法で描く。

彼女のルーツにあったのは、幼い頃に感じた「アートとは何か」という疑問と、アートに救われてきた経験。“アートの正体を探す旅”は、まだまだ続きます。

櫻井 絵里(さくらいえり)

神奈川県出身、東京都在住のアーティスト。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。フルイドアートの技法で制作する。

web site:http://erisakurai.com/

作品一覧:https://casie.jp/artists/787/

アートを知ることは、魔法を覚えるような感覚だった

ーー櫻井さんとアートの出会いは、お母様に連れて行ってもらった美術展だったそうですね。

櫻井 絵里(以下、櫻井) :オルセー美術館やオランジュリー美術館の展示が日本に来ていて、そういった美術展によく連れて行ってもらいました。当時、小学生だった私は、正直あまり行きたくなかったのですが…(笑)。ただ大人になった今思い返すと「アート」というものに初めて興味を持ったのは、その時だったんだと思います。

櫻井さんの作品

↑展示風景(櫻井 絵里)

ーーどんな部分に興味を持ったんですか?

櫻井 :大人がみんな、アート作品をじっくり長い時間をかけて鑑賞しているのが、当時の私にはすごく不思議に見えたんです。確かにテクニックはすごいけれど、どうしてそんなに長い時間観ていられるのかが分からなくて。その時「私には見えていない世界が、まだまだたくさんあるんだ」と感じて、それらをもっともっと知りたいと思うようになりました。アートを勉強することは、私にとって魔法を覚えるような感覚だったんですよね。

ーーその時の気持ちが櫻井さんの原点なんですね。

櫻井 :そうですね。元々は『セーラームーン』『るろうに剣心』などアニメや漫画が大好きだったのですが、それからは現代アートや一目見ただけでは分からないようなアートにも興味を持つようになりました。

ーーお母様はアート好きだったんですか?

櫻井 :本格的に学んでいた訳ではないですが、芸術全般好きでしたね。アート以外にもミュージカルや映画にもよく連れて行ってくれていたのですが、どれも小学生には理解しづらい大人が観るような難解な作品で(笑)。当時は退屈に感じることもあったのですが、大人になってから観直してみると「あぁ、これってこういう意味だったんだ」とか思うこともあって、二重に楽しめたりしています。

櫻井さんの作品

↑Entropy #01 / 櫻井 絵里

ーー当時の答え合わせをしているような。

櫻井 :まさにそういう感覚ですね。そういった経験も含めて、分からないから切り捨てるのではなく、縁を切らずにいることはすごく重要だなと思っています。その時は分からなくても5年後や10年後には分かるかもしれないので、「すぐに結論を出さない」ということは、自分が生きていく上での信念みたいなものになりました。

「アートとは何か」を探り続ける日々

ーー美大へ進学する際、絵画ではなく、映像の学科に進んだ理由は?

櫻井 :実は私、デッサンがすごく苦手だったんです。なのでデザイン科や油絵科には行けなくて。父や祖父を含め、先祖代々カメラをやっていたこともあって、映像の世界に興味を持つようになったのがきっかけです。入学当時は、映画やドラマに興味があったのですが、大学に通ううちにだんだん、ビデオ・アートの方に興味が湧いて、どんどん現代アート寄りの表現になっていきましたね。原点でもある「アートとは何か」という疑問を、ずっと持ち続けていたからかもしれません。

櫻井さんの作品

↑Entropy #02 / 櫻井 絵里

ーーそこから絵画へ転向したのも「アートとは何か」を探るためだったんですか?

櫻井 :いえ、卒業後は別の仕事をしながら、カメラで作家活動をしていました。ただ、3.11の震災を機に体調を崩してしまって、外へ写真を撮りに行くことが、なかなかできなくなってしまったんです。そんな時に始めたのが絵画でした。絵であれば、家の中でも描けるなと思って。そこから現在のフルイドアートを始めて、本格的に作家活動を再開したのが2021年。なかなか遠回りをしましたが、今はやりたいことを一番にやって、それで繋がっていく人たちと一緒に生きていくということに喜びを感じています。

物事の間や真ん中を「ゼロ」で描く

ーー櫻井さんが作品を制作する上でテーマにしていることはありますか?

櫻井 :生と死、夢と現実など、物事の間や真ん中を探るために、マイナスでもプラスでもない「ゼロ」をモチーフにしています。フルイドアートを始める前は、丸をグルグル描いたり、0という数字を画面いっぱいに描いたりもしていました。

ーー「ゼロ」というテーマが生まれた理由は?

櫻井 :真逆のものが混ざり合っている時に何かいいものが作れたり、プラスとマイナスの間を取るとうまく生きていけたり。バランスが取れた時や矛盾を受け入れた時にうまくいくというのが、今までの人生で気づいたことだったんですよね。なので、そのテーマで描いています。

櫻井さんの作品

ーーフルイドアートの技法では、どのように「ゼロ」を表現していますか?

櫻井 :例えば、絵の具の淡いところと暗いところを作ったり、補色であるオレンジと緑とか、赤と青のような反対色を混ぜて調和させたり。真逆の要素が円を描くことでバランスを取るようなイメージで描いています。その作業をすることによって、自分自身の心も落ち着いてくるんですよね。

人生をほんの少しマシにしてくれるもの

ーー櫻井さんが作品を制作をする上で、特に影響を受けた人物はいますか?

櫻井 :ダミアン・ハーストですね。彼の作品は、生と死や薬をテーマにしていることが多いのですが、そういったセンシティブな題材をシンプルかつストレートに表現できるところに、すごく感銘を受けました。
骸骨にダイヤモンドをたくさん埋め込んだ作品があるのですが、生と死という真逆のものを骸骨というモチーフだけで表現しているのはすごいなって。私自身も「ゼロ」を描くことでプラスとマイナスという真逆のものを表現しているのですが、それらは彼の作品から影響を受けているのだと思います。

櫻井さんの作品

ーーさいごに。今「アートとは何か」と問われたら、どのように答えますか?

櫻井 :「人生をほんの少しマシにしてくれるもの」ですね。まだまだ答えは見つけられていないのですが、今の時点での答えはそれです。生きていれば辛いことも苦しいこともある、だからといって自分で命を絶ってはいけない訳ですから、何か楽しいことを自分で探しにいかなくてはいけないんですよね。そんなときにアートがあれば、少し嫌なことや悲しいことから心を紛らわせたり、楽しいことを見つけることができる。生きていく中で、傍にあってくれると、人生が少しマシになる。なので、今“アートとは何か”と聞かれれば、そう答えます。
ただ、芸の道は長いので「アートの正体を探す旅」は、まだまだ続けていきたいと思っています。

Best Art Spot

櫻井さんがアートを感じるスポット

天王洲(東京都品川区)

アートのカフェやギャラリーも多くて、1日中アートを楽しめる街だと思います。川もあって、気持ちの良い風景が多く、休憩できるようなスポットもあるので、ギャラリーに入っても楽しいし、街歩きも楽しいです。
毎回行くのは「WHAT CAFE」。旬のアーティスト作品や、最新のアート動向が分かるような展示をよくやっています。あとは「TERRADA ART COMPLEX」も、日本を代表するギャラリーがいっぱい入っているので、よくチェックしています。

・WHAT CAFE
https://cafe.warehouseofart.org/

・TERRADA ART COMPLEX
https://terrada-art-complex.com/

My Rule

櫻井さんが絵を描く上でのルール

「思い通りにならないこと」を受け入れる

フルイドアートは、コップに絵の具を作ってキャンバスの上に垂らす技法ということもあり、思い通りにいかないことがほとんど。その「思い通りにならないこと」を受け入れるのがマイルールです。ある程度計画は立てますが、絵の具を流してからは臨機応変に決めていくということを意識していますね。 液体の力や、偶然できた模様を信じることで、人間の手では描けないようなものが描けたり、自分の限界を超えていくことができると思うんです。

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